第9話 ルークの過去 ー2

(やばいな……。このアイテムのせいでワイバーンの変異種以外にもぞろぞろ魔物がやってくる……)

 ルークは苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちをする。このまま街に戻ってもワイバーンの変異種をはじめとした魔物が街に跳梁跋扈ちょうりょうばっこするのは確実だ。だがなにもしなければルークはワイバーンの変異種やその周囲の魔物の餌食になってしまう。故にあれ・・を使うしかないのだが何せ欠点が多すぎる。一か八かの賭けと言った所だろう。だが、それ以外にルークの助かる道など無かった。

(くっ……。しょうがない……。これは正直使いたくはなかったけど……。自分の命には代えられない……!)

「"天限解放オーバーワーク"!!」

 ルークは最後の切り札とも言える"天限解放オーバーワーク"を発動する。"天限解放オーバーワーク"は発動する代償として何かを一時的に失わなければならない。その"何か"は人によってまちまちなのだがルークの場合は、

「くふふふふ……。あははははは!!」

理性のタガが外れ、"狂暴化バーサーク"してしまうというものだった。

 "天限解放オーバーワークを発動したルークは、ワイバーンの変異種を中心とした魔物の群れに向かって一直線に突っ走って行く。ルークはラグニールを背中に背負い直し、ポケットから"立方体の形をしたもの"を取り出す。

「"形状変化 念曲剣エアヴァイス"」

 ルークがそう言うと、"立方体の形をしたもの"が徐々に形を剣に変えていく。形状変化したそれは禍々しいまでのオーラを放っていた。そして、ルークが念曲剣エアヴァイスを振り下ろした瞬間。

 ルークを中心として空間が歪み、ワイバーンの変異種の周囲にいた魔物がまるで押し潰されたかのように体がぐしゃりと折れ、断末魔の悲鳴をあげながら次々と絶命していった。ワイバーンの変異種もルークの斬撃に巻き込まれたが平然・・としていた。

「ちっ……! 障壁を展開してやがったか。運の良いやつめ。だが……」

 そう。今のルークにとってはそんなことは些細なことでしかないのだ。邪魔するものは全て殺す、それだけだ。

「"理りをねじ曲げし者ブレイク ディストーション"」

 ルークは再びワイバーンの変異種に向かって狂ったような笑みを浮かべながら一直線に走っていき、斬撃を繰り出す。ワイバーンの変異種はその斬撃を防ごうと障壁を展開する。だが、次の瞬間。

「……!? ルオオオオオオオォォォォォォン!?」

ワイバーンの変異種の展開した障壁がグニャリとへしまがり、その障壁を展開していたワイバーンの変異種の周囲・・に斬撃を繰り出す。ワイバーンの変異種の周りの空間も当然ながら歪む。その圧力に耐えるかのように鳴き声をあげるワイバーンの変異種。

 やがて、空間の歪みも収まってくる。ワイバーンの変異種の身体はあちこち剥がれ落ちており、所々血も吹き出している。

「あははははは!! 無様だなあ!! そのまま朽ち果てちまいなあ!!」

ルークは止めの一撃と言わんばかりに"念曲剣エアヴァイス"を思い切り振り下ろす。だが、そこにワイバーンの変異種のブレスが襲いかかる。

(ちっ。避けられねえな……)

このままブレスを食らえば重傷は免れないだろう。しかしルークはニヤリと人の悪いような笑みを浮かべる。まるで余裕だとでも言わんばかりに。

「"形状変化 断裂剣ザナークワーグ"」

 ルークがそう唱えると同時に"念曲剣エアヴァイスが更に鋭くなり、幅が少し細くなる。依然として禍々しいオーラを纏っている。ルークがブレスに向かって"断裂剣ザナークワーグを振り下ろすと、スパッという爽快な音をたてブレスが二つに切断されそのまま勢いを失って消え去る。ワイバーンの変異種もその光景に驚きを隠せず混乱していた。その隙をルークが見逃す筈もなく。

「"一閃滅斬グライアスバーチ"!!」

"一閃滅斬グライアスバーチ"は剣を横一閃に思い切り薙ぐ攻撃だ。だが、それは別にワイバーンの変異種に当たらずともルークが視認すればその一撃はワイバーンの変異種を切り刻む。



ズバン!!



「ルオオオオォォォォン!?」

ワイバーンの変異種の腹が切り裂かれ、そこから大量の血が吹き出る。

「グルウゥゥゥ……!?」

苦しそうに呻き声を上げるワイバーンの変異種。やがて、呻き声も小さくなったかと思うと、ワイバーンの変異種の巨体がゆっくりと傾く。



ズウウゥゥゥン…………



重い音をたて、地面に倒れる。

「やっと死んだか……。なかなかにしぶといやつだったな……。……ちっ。まだ周囲に残っていやがったか」

ルークは面倒くさそうに舌打ちをしながら、周囲にいる何百匹の魔物に向かって断裂剣ザナークワーグを振り下ろしたーー。

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