第8話 ルークの過去 ー1

 三年前。ルークはS級冒険者パーティー「ネビウス」に所属していた。メンバーは四人。クリル、ネラ、レベッカ、ルークだ。クリルは男で、ネラ、レベッカは女だ。クリルは金髪に凛とした顔立ちのイケメンで、ネラは紫色の髪に緑色の目、レベッカは赤色の髪に青色の目でどちらも結構な美女であった。このパーティーではルークが最年少で、他の三人はルークよりも7、8歳ぐらい年上であった。だが、そんなのは関係なく今まで仲良くやってこれた。このまま四人でずっと冒険者を続けられるのだろうか。その頃のルークは純真無垢であり、まさかこの後あんな事が起こるだなんて予測もつかなかった。




 今日も冒険者ギルドにて掲示板から手頃な依頼を探していた。

「おい! これにしようぜ!」

 そう言って一枚の紙を手にこちらに小走りでやって来るクリル。その紙には、

『国指定クエスト:ワイバーン変異種討伐 難易度:86』

と記されていた。

 ……は? 難易度86!? それってS級冒険者パーティー三つ編成しないと無理なんじゃ……!?

「む、無理だよ! こんなの!! 考え直さない!? クリル!」

「そ、そうよ!! 無茶にも程があるあるでしょう!? 違うクエストにしなさい!!」

 ネラ、レベッカがそれぞれ異議を唱えるがクリルは、

「大丈夫さ! 俺達はそこら辺のS級冒険者パーティーとは違うんだ!!」

と強引に納得させようとする。

 結局皆であれこれ言うがクリルの強引さに負けてしまった。皆で話し合った結果、ワイバーン変異種の様子を見て、危険そうだったら引き返そう、という風に決まった。

 四人で受付へと向かう。受付には受付嬢が一人いて、クリルが代表してワイバーン変異種の討伐の依頼がかかれた用紙を渡す。受付嬢にも散々反対されたが、結局受付嬢もクリルの強引さに負けてしまった。受付嬢に何回も「気を付けてくださいね! 危険だったら絶対戻って来てください!!」と念を押された。余程不安だったのだろう。その顔からは隠しきれない悲壮感みたいなものが浮かんでいた。

 僕達は受付嬢から地図を貰い、指定された場所へと向かう。場所はシーラス大草原。不定期に現れるらしく、現れては行商の馬車を襲ったり、騎士団の馬車を襲ったりと被害が後を立たないらしい。そのせいで、普段シーラス大草原を通る行商の馬車や騎士団の馬車等は迂回せざるを得ないらしく、冒険者も滅多に近寄らなくなったらしい。ワイバーンは基本気性は穏やかで人には無害なんだけど……。何かあったんかな……。用紙にも『ワイバーン変異種』とか書かれてたし……。

 ルークは溜め息をつきながら三人とシーラス大草原を歩く。大草原には目立った木々もないのでワイバーンの変異種も直ぐに見つけられるはずなんだけど……。見当たらないな。今日はあらわれないのかな……。現れないに越したことは無いんだけど……。

 僕がそんなことを考えていると、

「おい、来たぞ! 上だ!」

とクリルがこちらに向かって叫んだ。僕達もそれにつられて上を見る。すると、そこには全身真っ黒い瘴気のようなものに身を覆われたワイバーンの変異種がいた。その姿はまさに異様で変異種と言われていたのも頷ける。

「ネラ! 弓を撃ってあれを地上に引きずり下ろしてくれ! じゃないと戦えない!」

 クリルはネラにそう言うが、

「む、無理だよ! あいつに矢が当たって地上に引きずり下ろせたとしても、その後どうなるかわからない! 無茶は禁物だって言われたでしょ!!」

「俺が最初に行けば問題ない! 頼む、一度だけで良い! 矢を放ってくれ!」

ネラとクリルはあーだこーだ言いあっている。そんなことしてる場合じゃないのに……!

 僕が二人のやり取りを見て少し焦っていた、その時。

「ルオオオォォォォォン!!」

 ワイバーンの変異種の咆哮が草原一帯に響き渡る。

「クリル、ネラ!! 避けて!!」

 僕は大声でそう叫ぶ。二人も僕の声に気づいたようで、左右にそれぞれ分かれた。すると、二人がさっき居た所にワイバーンの変異種が猛スピードで突っ込んだ。と同時に地面に足でスピードを減速させながら着地した。ワイバーンの変異種のその圧倒的な迫力に少しながら怯むルーク。だが、

「おい! ネラ! 矢を放て!!」

「分かった! "光の矢ホーリーアロー"!!」

 クリルに矢を放つように言われたネラは、先程まで見せていた躊躇いが嘘のように・・・・・・・・・・・・・・・・・・思い切り矢を放っていた。あろうことか初級魔法・・・・でだ。当然、そんな魔法が効くはずもなく。

「ルオオオォォォン!!」

 ワイバーンの変異種は再びこちらに突っ込んでくる。



ペチャッ

 


 ん? 僕の背中に今何かついたような……。

僕はそんな疑問を持ちながらもこちらの方に突っ込んでくるワイバーンの変異種を避ける。だが、

「な!?」

避けたかと思ったワイバーンの変異種が再び猛スピードで突っ込んで来たのだ、ルークに向かって・・・・・・・・

 くっ……! 何で僕の方にだけ……! これはまずい!

「皆! 援護してくれ……!?」

 ルークがクリル、ネラ、レベッカに援護を頼むが、三人は既に街の方向に向かって逃げていた。ルークはこの瞬間に全てを悟った。

 


 ーー最初から僕を囮にして、逃げる算段だったのかーーと。



 ネラ、レベッカはクリルに恋をしていた。傍から見ていても、それは最年少であったルークにもしっかりと伝わっていた。クリルもまた、気づいていたんだろう。それで僕の存在が邪魔になってワイバーンの変異種の囮にした。きっとそういうことなんだろう。多分僕の背中についているのはモンスターをおびき寄せるために使われる液体状のアイテムだろう。ギルドもグルだったのかな……。

(……。仲間だと思っていたのは僕だけ……。あは、あははははは……)

 ルークは心の中で乾いた笑いを浮かべると共に、仲間なんて所詮は信頼するに値しない虚像であることを思い知らされた瞬間であった。

 


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