第7話 ルークとユール ー2
ルークは"ゲイルオーガ"に向かって一直線に走っていく。その速さにユールは驚きを隠せない。
(……あの子……。何なのあの速さ……。私の数十倍のスピードで動いてる……)
ルークの動きは常人の目に追えるものではなく、エルフであるユールでさえ目で追うことができないレベルだ。当然ながら、"ゲイルオーガ"もその例に漏れず、
「ウウウゥゥゥ!?」
と、謎の声を上げていた。ルークの動きが速すぎて混乱しているのだろう。
「はぁ!!」
ルークはその隙に"ゲイルオーガ"の後方に回り、ラグニールで背中を裂く。
「ウゴオォォォォォォ!?」
そのあまりの衝撃に"ゲイルオーガ"は悲痛な叫びをあげる。
「ウゴオォォォォ!!」
"ゲイルオーガ"は怒り狂った様子で"ウォーターカッター"を連発する。だが、そんな闇雲な攻撃がルークに当たる筈もなく。
「てい!!」
"ウォーターカッター"の連発が終わったタイミングを見計らい、ルークは正面から攻撃を仕掛ける。"ゲイルオーガ"が気づいた時には、腹、胸がそれぞれ切り裂かれており。
「ウゴオォォォォォォ……」
"ゲイルオーガ"は断末魔の悲鳴をあげ、その場に倒れ伏した。そして、"ゲイルオーガ"の死体が光ったかと思うと、死体が消え、その代わりにこぶし四個分の大きな魔石が出現した。ルークはその魔石を手に取り、自分の持っているアイテム袋に入れるかと思いきや、それをユールに向かって投げた。ユールは反射的にそれを受け止める。
「その魔石はエルフのお姉さんに差し上げます」
ルークの言葉にただただ口を開けてポカーンとしているユール。だが、ユールもやっとルークの言っていることが頭に入ってきたようで。
「……ちょっ!? これは頂けないわ! あなたが倒して手にいれた魔石なんだから」
ユールはルークから投げ渡された魔石を返そうとするが、
「お願いします。もらってください……。それとも何か受け取れない理由でも……?」
ルークが必死(?)に頼み込む姿を見て、ユールは断るに断り切れず、
「わ、分かったわよ……。これは私が頂いておくわ……。あ、後あなたの名前を聞いても?」
「そう言えばまだ言ってませんでしたね。僕はこのダンジョンを
「私はユール・ヴィリングよ。見ての通りエルフ族よ……って今何て言った?」
ルークは自分の名前を聞き直したのかと思ったが、
「? ですから、ルーク・ハインドと……」
「違う!! その後よ! ダンジョンがなんなのって……」
ユールに否定された。だが、ユールがその後に言ったダンジョンという言葉にユールが何を聞きたかったのかピンときたルークは、
「ああ、僕はダンジョンを
と答えた。
「……それってそんな簡単に教えて良い事だったけ?」
ユールのこの質問にルークは、
「……さあ? わかりません」
首を傾げながらそう答えた。
「あなた、ダンジョンを経営してるんでしょ? てことはダンジョンマスターなんでしょ? ここの」
「はい、確かにそうですね」
「…………その情報って重要なものじゃないの……!?」
ユールは頭を抱えた。普通、ダンジョンを経営していることなど誰にも言わない。これは冒険者内では常識なのだ。ダンジョンマスターだとばれたら厄介事になりかねないからだ。
「ねえ、あなた冒険者ギルドに加入はしてるわよね?」
当然ルークはそんなギルドには加入していないので、
「いいえ? 加入してませんが」
と答えた。
「そうよねー。加入してるわよね……って、えええぇぇぇぇぇ!? 加入してないの!?」
「……? はい」
ルークは何に驚いているのかわからないといった感じで首を傾げながらも、頷きながら返事を返す。
「……そんなに強いのに?」
「冒険者ギルドに興味もありませんしね」
ルークは事もなげにそんな言葉を言い放つ。
「いやいや!! 興味あるなし関係無しに加入するでしょ普通!? 冒険者ギルドに入れば、色々と有利になるのよ!? 素材の換金率があがったりとか、仕事を優先的に斡旋してもらえたりとか」
ユールはそんなことを言うが、
「いやー。冒険者ギルドに入って素材の換金率が上がったとしても微々たるものですし……。仕事は別に優先的に斡旋してもらわなくても十分やってけるんですよ」
ルークは曖昧な答えを返す。ユールは何故だかこれ以上踏み込んではいけないものを感じた。だが、ユールはそれでももう一歩踏み出す。
「じゃあ、私が冒険者ギルドに行ってーー」
ルークを紹介するよ、と言いかけた。だが、
「やめてください!!」
ルークの突如発した大声にユールは途中まで言いかけた言葉を引っ込めた。
「……すみません。少し取り乱しました」
ルークは軽く頭を下げる。
「い、いえ……。こちらこそごめんなさい。不愉快にさせてしまって」
ユールも申し訳なさそうに頭を下げた。
「……いえ、とんでもないです。じゃあ、ユールさん。ダンジョンの入り口まで送りますよ。僕の手を掴んで下さい」
「悪いわよ! そんな……。自分で帰るわよ」
ユールはこれ以上ルークに迷惑はかけられない、そう思ったのだが、
「……この先どんな魔物が出るか分かりませんし、危険です。送らせて下さい。じゃないと、僕が安心出来ません」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
ユールはそう言い、ルークの手を掴んだ。
「"
ルークが魔法を唱えると、灰色の魔法陣が浮かび上がる。これが初めての使用なので、上手くいくか分からないが、これが一番安全な方法だったので選択した。
ルークは成功することを祈りながら、ユールと共に白っぽい光に包まれるのだった。
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