第6話 ルークとユール ー1

 ここは、六十階層。エルフ族の女、もといユールは巨大な人型のモンスター、"ゲイルオーガ"と戦っていた。外見は、普通のオーガより二回り位でかく、動きも普通のオーガよりも数倍素早く、身体中黒色である。

「うぐっ!?」

 ユールは、"ゲイルオーガ"の攻撃を避けきれず、腹部にパンチをもろに浴びる。そのせいで身体もろとも吹き飛び、そのまま、地面に何回かバウンドしてしまう。

「ぐっ……」

 ユールは腹部に受けた衝撃ですぐに立ち上がれず、苦悶の声を漏らす。だが、そうしている間にも"ゲイルオーガ"は次の攻撃を仕掛けてくる。"ゲイルオーガ"は自らの前に魔法陣・・・を形成した。その事にユールは驚きを隠せない。"ゲイルオーガ"は形成した魔法陣から複数の"ウォーターカッター"を放つ。ユールは痛む身体を無理矢理動かし、すんでの所で"シールド"を複数展開することで回避した。普通のオーガやゴブリンだったらここで終わりだったろう。だが、ユールが今戦っているのは普通のオーガではない。"ゲイルオーガ"は、"ウォーターカッター"をユールによって防がれたと同時に、ユールの目の前まで移動し、再びパンチを繰り出そうとする。ユールはそれを間一髪でどうにか回避し、後ろに後退する。ユールが後退したことで"ゲイルオーガ"とユールの間に距離ができ、どちらも互いを睨むような視線で膠着する。

(……こんなに知能の高いオーガなんて見たこともない……!! このままでは負けることは明白。あれ・・を使うしかない……!)

 成功するかわからない、一発限りの賭け。でもこれ以外にユールが助かる術はない。故にユールはそれ・・に全てを賭ける!!

「"デアリング破天荒"!!」

 "ゲイルオーガ"の回りを切り刻み、爆発する風が囲む。この"デアリング破天荒"は詠唱を必要としない代わりに膨大な魔力を消費する。その分威力は絶大で、大抵の魔物はこれに抵抗する術など持ち合わせておらず、ただ成すがままにやられていった。これならあのオーガでも無事ではいられない筈……!

 ユールにとって、あのオーガを倒すのはさほど重要ではなかった。ただ、逃げ出す隙が作ることの方が重要だったのだ。

 "ゲイルオーガ"が"デアリング破天荒"に巻き込まれてるうちに速く逃げよう……! そう思い、残ってる力をありったけ絞り走ってこの場から逃げようとする。

 だが、ユールはそれが出来なかった。否、阻まれたのだ。後ろから"ウォーターカッター"を飛ばしてきたオーガによって。

「がああぁぁぁぁ!?」

 ユールはそれをもろにくらってしまい、その場に崩れ落ちた。意識は朦朧としており、魔力も底をつき、何もできない状態だった。

(ああ……。私はここで終わってしまうのか……。まだやりたいことも山ほどあったのに……。私を置いていった・・・・・・パーティーのメンバーを一生恨んでやる……!!)

 ユールはせめてもの抵抗で、上から自分を見下ろすオーガを睨み付ける。だが、オーガはそれを嘲笑うかのように握った拳をユールに振り下ろす。ユールは目を瞑り、自分の死が来る瞬間に備える。

…………………………?

 だが、いつまでたっても死は訪れなかった。ユールが恐る恐る目を開けると……。

 そこには白髪の、私よりも背格好が小さい全身黒い格好をした少年が、二本の長い棒に極端に曲がった刃がついた武器で、オーガの攻撃をやすやすと受け止めていた。少年がその二本の武器を横凪ぎに振るい、オーガを一旦遠ざけた。

「はぁ~。間に合って良かったです。エルフのお姉さん」

 白髪の少年は私にそう言って微笑む。

「あ、エルフのお姉さん。これ飲んでください」

 そう言って白髪の少年は、自分のポーチから薄い緑色の液体が入ったポーションを取り出して私に直接渡してくる。私はそれを開けて、全て飲み干した。すると、ユールの傷や魔力、全てに至るまでさっきまでのことがまるで嘘のように回復していく。

(……! ここまで回復するポーションなんて聞いたこともないわ……! あの小さな身体であのオーガの攻撃まで……。彼は一体……!?)

 そう。普通に街や国で販売しているポーションだとせいぜい傷が少し治る程度の物なのだ。それをあろうことか彼のポーションは"全て"を回復してしまったのだ。それ故に彼が一体何者なのか更に気になってしまった。

「エルフのお姉さん。ちょっとそこで待っていて下さい。あいつはすぐに・・・片付けますから」

 彼はそんな驚きの発言をしたあと、あのオーガに向かって一直線に走り出した。





 

 



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