第5話 ダンジョンマスターとしての初仕事

「……? ここ、ただの壁なんだけど?」

 ルークはシーリーの言っている事がわからず、首を傾げる。

「違うわよ。ここにスイッチがあるでしょ?」

 よく見ると確かにそこにはスイッチがあった。ほぼダンジョンの壁と変わらないような色だったのでよくわからなかったのだ。

「ここに魔力を流し込む事で、壁が開くの。その先にダンジョンマスターの部屋があるのよ」

 シーリーはそう言いながら、スイッチに魔力を注ぎ込む。

 スイッチに魔力を注ぎ込むとブロックが左右にバラバラに動きだし、ダンジョンマスターの部屋への入り口が出現した。中に入ると、早速目に飛び込んで来たのが五十個は下らないモニターの数々だった。そのモニターの画面は四分割されており、どのモニターもダンジョン内を写し出していた。

「……シーリー、あれは?」

「あれは、"トライル"よ」

「何? そのトラ……何ちゃらって」

「"トライル"よ。ダンジョン内の冒険者が危険に晒されてないか、ダンジョン内のモンスターに異常な動きがないかとか色々見ることが出来るの」

 シーリーは他にも色々と説明してくれた。白色の魔法陣は転移魔法陣で自分の行きたい階層の行きたい場所に飛ばしてくれるらしい。主に危険に晒された冒険者の救出に使うそうだ。他にも、箪笥たんすみたいなものがあったり、風呂、トイレ、冷蔵庫もどきなど、生活に最低限必要な物が揃っていた。まさかとは思うけど……。

「ね、ねぇ……。シーリー。まさかとは思うけどここに住めとか言わないよね……?」

 必要最低限の物が揃っているとしてもここはダンジョンだ。この部屋は飾り気がなく周り中壁である。こんな窮屈な場所には住みたくない。

 僕は半ば冗談みたいなつもりで言ったのだが、どうやら当の本人は違ったようで。

「そうよ! あなたは今日からここに住んでもらうわ!」

……………………………。はあぁぁぁぁ!?

「シーリー。待って。本当にここに住まなきゃいけないの? ここダンジョンだよ? 考え直さない?」

「……? 考え直すもなにも皆そうしてるわよ。これはダンジョンマスターの掟の内の一つだから、破ったらどうなるか……。わかるわね?」

 シーリーは有無を言わさない、そんな顔で僕を見てきた。

「……はぁ。わかったよ」

 僕は溜め息をつきながら、仕方なく了承した。

「分かればいいのよ。ああ、あと、あなたの実力だけど……。あれならダンジョンマスターを任せられるわ。ダンジョンマスターの長にもそう伝えておくわ。それと、来月辺りに九ダンジョンマスター会議があるから。じゃあ、私はこれで失礼するわ。ダンジョンマスターの初仕事、頑張ってね」

シーリーはそう言うや否や転移魔法陣でその場を去る。まあ、ダンジョンマスターの長に報告するって言ってたし、多分そこに向かったのだろう。

「さてと……。仕事を始めますか……。あ、服とかどうしよう。他にも持ってきたいものとかあるし。まあ、いいや。確かダンジョン経営は夜の十時くらいに終わる筈だから……」

 ルークは短時間で帰る手段を確保したいと考える。そこでさっきの転移魔法陣を思い出す。

「おっ。これなら創れそうだ・・・・・

そう。ルークは武器を作れるだけでなく、魔法も創れるのだ・・・・・・・・。とは言っても多少複雑なものまでしか創れないが。勿論魔法を扱う事もできる。

 ルークは早速作業に取り掛かる。まずは、魔法陣に描かれた魔法式を魔法で写しとる。

「"イミテーション模倣"」

ルークは魔法式を写しとる事に成功する。そして、その写し取った魔法式を自分が使えるように少し書き換える。その書き換えた魔法式に、ルークのオリジナル魔法陣を組み込む。そうすることで、他者から魔法を簡単に盗まれないようにするためだ。まあ、とは言っても魔法を盗むなんてそんなのは技術の高い魔法師じゃなきゃ不可能なんだけど。

 暫くして、ルークの転移魔法が完成した。

「ふぅ……。古代の・・・魔法だったから少し手間取ったな……。さて、移動手段も確保出来たし、試すのは後にして……。仕事に戻るか」

 ダンジョンマスターの主な仕事は"トライル"をくまなく見て、冒険者が危険になったら即対応する、ダンジョンのモンスターの管理、ダンジョンコアの管理、この三つだ。

 ルークは目を凝らし、50台、いや、100台以上の"トライル"をくまなく見る。

 暫くそんな作業を続けていると、複数ある"トライル"の一つに大型のモンスターに一人の女が襲われているのが映っていた。大型のモンスターは、画面が少し小さいからわからないが、女の方は特徴からして、エルフ族で間違いない。

「やばい! 助けに行かないと」

 ルークは一瞬、自分の創った転移魔法を試そうと思ったが失敗したら元も子もないので部屋にある転移魔法陣の上に乗ってその階層へ急いだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る