第10話 再会する俺と奈緒

俺は女の子になった生活もだんだんと慣れてきた。

学校の生活はとても辛いて苦しくて、死のうかと考えた時期もある。

だけど今は奈緒の家に帰るとそれを打ち消してくれるような

楽しさが待っている。


もう俺は奈緒のお父さんのこともオヤジとは呼ばなくなっていた。

その奈緒のお父さんと親密になる関係を作ってくれたのが

アニメーションだ。

奈緒のお父さんもアニメ好きを隠すために娘に気を遣っていたみたい。


俺が深夜にトイレに行く最中でアニソンぽい音楽が聞こえたから、

少し応接間を覗くとロボットアニメに釘付けになっていたお父さん。

このアニメはファーストから現代まで続編とリメイクが

絶えない人気シリーズである。青い流れ星の軍人がまたかっこいいんだ。

そこから一気に話が盛り上がり、奈緒のお父さんの帰りが早いときには

応接間のテレビにインターネットを繋いでアニメ鑑賞会が行われる毎日に

変わっていったのが、現在のありさまだ。


「お父さん。やっぱり

『僕はこの戦闘が終わったら、この娘と結ばれるんだ』って

 完全な死亡フラグだったよね」


「お父さんは生きてあのまま江藤曹長と結婚して欲しかったよ。

 帰りを待つ気持ちは僕には痛いほどよく分かるからね」


「……その気持ち、わたしにも分かるよ」


「奈緒はまた優しくなったね。父さんはヒトの気持ちを

 考える素直な子に育っていてくれて嬉しいよ」


ザーーーーー……


「それにしてもまだ雨音が鳴り止まないな。明日は晴れるかな?

 実は父さん、明日の出勤がいつもより少し早いんだ。

 悪いが奈緒1人だけで続きを見てくれるい?」


「わたしはまたお父さんと一緒に見たい。だからわたしもそろそろ寝るよ。

 ちょうど眠たくなってきたんだ」


俺1人でも鑑賞するよりも友達と一緒に見るような新しい感覚の味を

覚えてしまったから……


「そう言ってくれると父さんは嬉しいよ」


「わたし、お父さんの準備の邪魔をしたくないから先に2階に上がるね。

 おやすみなさい、お父さん」


「奈緒、おやすみ。また明日アニメの続きを見ような?」


「うん、ありがとうお父さん。おやすみなさい」


俺は手に持っていたおせんべいの袋を台所の棚に戻して、奈緒の部屋にいく。

スマートフォンを使って奈緒の部屋に明かりを灯す俺。

最近の家電はスマートフォンといろいろと連動していろいろと

便利になったと思う。


「またお父さんのいたずらだな。

 あのヒトはいろいろと子供ぽいところがあるからな」


俺のベットにはウサギのぬいぐるみが顔を出して寝かされていた。

布団には大きな膨らみにある。


「布団の中には武装集団のウサギのぬいぐるみが

 怒濤を組んでまた潜んでいるな。あいつらってちょっと見た目が

 ガラの悪いところもあるから苦手なんだよな」


「寝ていてもいつウサギたちに寝首を取られるかって気がないんだよね。

 この際だから次の燃えるゴミの日にまとめて捨てるか?

 奈緒には悪いけどそれもこいつらの運命か?」


俺がウサギたちに冷たい声を言いかけたその刹那。


「わたしのウサちゃんを捨てちゃあ……嫌だぁぁーー」


布団の中からいきなり俺に飛びかかってきた男。完全に不意をつかれた。

男の手が俺の首をぐいぐいと締め付けていく。


「……うぅ」


これが男と女の体格の差か? 初めて女の目線の男の怖さと恐怖を知った。

まるでヒトよりもモンスターに首を絞められているみたいだ。


「……うぅ……く、苦しい、死ぬ」


「死んだら、ダメだよ。何が何でも生きないと……」


無茶苦茶なことを言って、俺の首を掴んでいた手を一方的に離す男。


「……はぁ……はぁ……死ぬかと思った」


俺を殺そうとした男はぽろぽろと涙を浮かべて泣いていた。

短髪でエメラルドグリーンのように輝く瞳。鋭く吊り上がった眼光。

これってまさに天使だった頃の俺の姿じゃないか? 揺れ動く鼓動が半端ない。


「……もしかしてお前は奈緒、本物の愛川奈緒か?」


「分かるのあなた……わたしのことが……

 うん、そうだよ。わたしの名前は愛川奈緒。

 あなた名前はもしかしてレオエルくん?」


「そうだ、俺の名は天使レオエルまたの名を篠染玲音。

 人間だった頃の俺の名前だ」


何で聞いてもいないのに昔の俺の名前を奈緒にしゃべってしまったんだろう。

孤独だった俺を認めて欲しかったのかもしれない。


「ではさっそく、玲音くんに少しお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」


俺を見つめる来る奈緒。外見は元俺なのにしぐさが女性ぽっくて

何だかこっちまで恥ずかしくなってきてしまう。


「ウサギのぬいぐるみのことだよな、OK。

 約束するよ。俺が不眠症になっても絶対に捨てないから」


「頬を赤めちゃって可愛いね、玲音くんは。それもあるんだけど……」


奈緒の顔がだんだんと近づいてくる。

男の吐息なのに心が変にドキドキして。


「他に何かな? 奈緒」


「それはね、早くわたしの体を返してよっ!」


ごつーーーんっ! 俺の頭に目がけて頭突きしてくる奈緒。

一瞬だけ綺麗なお星様がグルグルと回って光って見えた。

地面に這いつくばる俺。


「痛い、痛いって…… 奈緒、お前がしたことが分かっているのか。

 女の子に顔に傷をつけたらどうするんだ?」


「あれ、あれ、戻っていない。まだわたしは男の子の姿のままだ。

 おかしいな。恋愛ドラマで2人とも入れ替わっていたのに。

 もっと衝撃が足りないのかな? もう一度いくから我慢してね」


俺の言葉も届いていないらしく、もう一度腰をかがめ

頭突きの構えに入る奈緒。


「早まるな、奈緒。こんな原始的なやり方で元に戻るわけないだろ。

 俺は元天使だったんだぞ。

 その、神の力が複数にも絡み合っているかもしれないんだ」


神様が俺たちにどんな裁きを与えたのか分からないけど……

今を大切に生きるしか俺たちには残されていないんだ。


「……わたしたちって一生の姿のままで生涯を閉じないといけないのかな?」


俺のさとす言葉も受け入れてくれたのか?

奈緒は急に弱気になり、俺に疑問の言葉を投げかけてくる。


「それは俺にも分からない。

 だからこそ一緒に探す方法を探して行こう、奈緒」


「うん。ありがとう、玲音くん」


お互い別々の道を歩んできたけどこれからは共に一緒の道を進もう。

もう俺たちは仲間なんだから。


「それはそうと玲音くん、お父さんといったいどんなテレビを見ていたの?

 そこにはわたしの知らないお父さんの姿があったから気になって……」


「それは奈緒に言えるわけないだろ。奈緒のお父さんと

 男と男の約束を約束を交わしたんだから」


「今は男と女の約束でしょ? 玲音くん」


「そんな揚げ足を取っても奈緒には教えることはできない……」


娘に必死になってひたむきに隠していた一途の奈緒のお父さんの

気持ちを考えたら簡単に言えるわけがない。

アニメ好きはまだ世間では白く見られる確立されていない

オタクたちの世界なんだから。


「……その不潔だよ。親子でエッチなDVDを鑑賞するなんて。

 わたしのお父さんをそんな変な道に誘惑しないでよ」


パン……パン……


奈緒が抱えたウサギのぬいぐるみの銃弾が俺目がけて飛んでくる。

あのウサギのライフルは実用性があったのか?

しかも俺の予想外の斜め上にいく展開になってきたぞ。


「そんな破廉恥なやつを見るわけがないだろ。冷静になって考えて見ろよ。

 今の俺は女の子だぞ。そんなもの今更見ても興奮するわけないだろ」


「玲音くん……今、今更って言ったよね。

 わたしの体に変ないたずらしていないよね」


奈緒の俺を見る目つきが変わっていく。

「何をふざけたことをしているのよ、あははって」伝わってくるような

白い目の眼差しの奈緒。


「…………」


俺は思いっきり奈緒の胸をわしづかみしていた触っていたような……


「その、ごめんなさい。奈緒さん。

 女の子になった時に確認の意味も込めて胸を揉んでしまいました」


「もう、玲音くんのエッチ、すけべ……女の敵……」


「あの変質者に向かってウサギさんたち一斉射撃、撃てっ!」


パン、パンパン、パン……


「痛いって……誤解なんだ、俺の話を聞いてくれ、奈緒っ」


「問答無用! 破廉恥なヒトに人権はないんだからっ!!」


奈緒に罵倒され、ウサギたちに狙撃され続ける俺。

これで俺と奈緒との主従関係が決まったかもしれない。

どうやら長く降り注いていた雨もやんだようだ。もう雨の音が聞こえない。

明日きっと晴れるといいな? お父さんのためにも……

俺はお父さんことを思って現実から少しでも逃避していた。

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