第2話

 『私』。14歳の秋。


 中学二年生である私は、憂鬱ゆううつに身をおよがせながら、重い足取りで学校への道を進んでいた。

 私が通る道は、大体が車の多く走る大通りだ。車が多い分、当然歩く人並みも多い。現在時刻は、もうすぐ昼時の11時半を回る頃。この時間帯でも、人通りはせず、様々な人々が行き交う。携帯を片手に歩く若者、ベビーカーを引きながら歩く夫婦、早めのお昼休憩なのか、額に汗をにじませ財布を持って走るサラリーマン…。

 こんな中途半端な時間帯だ、当然、私の周りに制服姿の学生の姿は無い。みんな学校だ。今頃、早く昼にならないかな…とでも考えながら、長々と授業を受けているのだろう。

 では何故、私がこの時間帯に学校に向かっているのか。それは私が不登校だからだ。学校なんて嫌いさ、行きたくない。出来ることなら家に閉じこもって、一晩中、ネットの人達と会話や、ゲームをしてたい。夏を越した今、それなりに気持ちいい風が吹き流れる今日こんにち。炎天下の中、延々と信号を待ってたりする夏よりかはマシだが、嫌なものは嫌。家からの学校への距離が余り近くないので、不登校の原因の一部にもなりつつある。まぁ、そんなのは私の我儘わがままだが。みんなはちゃんと遠くても毎日通っている。そんなみんなが凄いと思う。現実が怖くて逃げ出した私に、凄いだなんて上からな言葉を言う資格は無いのだが…。

 そんなこんなで学校の正門へ着いた。堂々と私を向かえる、少し赤錆びた大きな門。私はこの門が嫌いだ。入学式を思い出し、期待に焦がれて入学した時の、まだ青くて幼かった私を思い出しては、みじめだったと嘆くからだ。出来れば永遠に、記憶の外へ封印したい。何もかも、忘れてしまえば楽なのに。そうしたら、幾分か私は…。



「…おはよう、ございます」

 木で造られた、職員室の古い扉を開ける。

 目の前に映るのは、パソコンの前で腕を組んで腰掛ける教頭だ。私に気付くと、少し慌てた様子で話し出す。

「…あ、前原くん。おはよう、今日も来れて良かったです。えっと、池口先生には会った?」

 池口、とは、私の担任だ。眼鏡をかけ、白髪混じりの黒髪をした、男性教師である。

「いえ、会ってないです」

 私は簡潔に答える。

「そう。今日もまた、相談室かな?」

「…はい」

 "今日もまた"、と言われるのが、少し悔しいと思った。

「じゃあ、相談室の福田先生に言っておきますね」

「はい。ありがとう、ございます…」

 そう言って、私は職員室の扉を閉めた。やけにずっしりと、扉が重く感じた。


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夢想 @ajinomoto619

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