夢想

第1話

 腹を捌いて自殺しようと思った。手首を切って死のうと思った。庭でガソリンを被り、火をつけて死のうと思った。大量殺人を犯して、死刑になって死のうと思った。

 『私』。14歳の、蝉の声が轟くある夏の日であった。



 欲しいものは、全て手に入れた筈だった。欲しい本も、新しいゲームも、好きなアニメのグッズやら、美味しいお菓子や、何もかも。それが、私が欲しいと望んだ物たちの筈だった。買うと満足し、しあわせな気持ちになった。心が温かくなった。

 だけど、何か違った。

 私は自分の欲しいものを手に入れた後、必ず変な無力感に襲われるのだ。何をするにも、やる気が起きない。買ったばかりのゲームだろうが、本だろうが、触る気にもなれない。まるで、心にぽっかりと穴が開いてしまったように。それまで埋まっていた『何か』は、翼が生えて飛んでいってしまったのだろうか。どこにも見当たらない。…いや、何を無くしてしまったのかも、私は疾《と》うに忘れてしまったのか。

 思い出せない。確かに、『何か』が無いのに。無力感に襲われて、『何か』を失うと、私はいつも自暴自棄になる。世界のこと、自分の周りのこと、はたまた自分のことまで、どうでもよく感じる。このまま死んでもいいとも、思う。死んだら買った意味さえ無くなるのにね。

 だけれど私は、しあわせな気持ちになる為に、何度も何度も、欲しいものを探して、買う。その度に、『何か』を失っていく。

 …あれ?そしたら私は、何故、物を買う度に訪れる無力感を感じても尚、欲しいものを買い続けるのだ?何度も繰り返しているのに、どうして?…私は『何か』を失うと、とても寂しく感じられるのだ。寂しくて、悲しくて、それはまるで、粉雪のちらつく凍えた夜空の下に、独りでうずくまっている様な…。

 私は、『何か』を失ったことさえもいずれは忘れて、同じことを繰り返していると言うのだろうか?なんて、滑稽な。馬鹿らしい。

 一時のしあわせに浸る。一時のしあわせが、とても気持ちいい。それはまるで、ギャンブルのようだ。賭博狂いにでもなったのだろうか?私はいつからそんなに堕ちてしまったのだろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る