第2話 舞う二つの桜

 あれから、二週間が経った4月1日――

 恵瑠めぐるは江の島からほど近い所にある高校『峰ヶ原高校』の3年1組の教室に居た。


「それじゃぁ、一宮。自己紹介よろしく」

「えぇ~と、一宮 恵瑠です。よろしくお願いします」

「「「……」」」


 恵瑠のあまりにも簡素な自己紹介に生徒達は困惑している様だ。


「えぇ~、一宮の席は……鮎沢の隣だな」


 そう言われ、恵瑠は指定された窓側一番後ろの席へと足を運ぶ。

 すると、あり得ない光景を恵瑠は目にした。


「よろしくね!恵瑠君!」


 ここに居ては、いけない人間が恵瑠に声を掛けてきたのだ。

 その所為で、恵瑠はその場で呆然としてしまう。


「っふふ、大丈夫?」


 と、少女は笑いを堪える様な仕草を見せる。


「ん?どうした、一宮」

「……いえ、何でもありません」


 先生の声で正気を取り戻した恵瑠は生徒達の好奇の目に晒されながら、少女の隣の席に腰を下ろし鞄を机の横にかける。


「さぁてぇ……」


 担任の先生が怠そうにHRを進めようとする。すると……


『俺はぁぁぁぁぁぁ!』


 運動場の方から、男子生徒の大きな声が聞こえてくる。

 それに、反応した生徒達が、窓際へと一斉に駆け寄り、それに押しつぶされるような形で、恵瑠も運動場に目を向けた。

 そこには、運動場のど真ん中に男子生徒が一人立っていた。


『俺は3年1組のぉ!鮎沢 桜あゆさわ さくらさんの事が!すきだぁぁぁぁぁ』


 と、公開告白だった。

 恵瑠は先生に目線を向けると、『またか……』と言った表情をしていた。


「何だこれ……」


 恵瑠が小さく呟くと、恵瑠の後ろに居た、恵瑠にとってこの場に居るはずの無い、長い黒髪の少女、さくらが大きく息を吸う。すると――


『ごめんなさぁぁぁぁぁい』


 と、恵瑠の耳の横で叫んだ。その所為で、恵瑠は耳がぼーとし、しばらく耳が聞こえなかった。


「お~~い。お前ら終わったなら、席につけぇ~」


 担任の先生は、さくらの返事が終わると、怠そうにそう言った。


「っあ!ごめんね。耳大丈夫?」


 ぼーっとしている耳を触っていた恵瑠に気が付いた、さくらが恵瑠に声を掛けてきた。


「ん?なに?」

「ごめんね!大丈夫だった?」


 先程より、大きな声で、恵瑠に声を掛ける。


「ん。あぁ、大丈夫だ。だいぶ戻ってきた」

「そう?本当にごめんね!」


 そう言い、さくらが席に着きHRが再開された。

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