パステルカラーの彼女と、濃紺の僕

soratomau 言の葉

第1話 'ミ シ リ’ の時

「それカワイイですね」


年甲斐もなくつけていた派手な時計を見て、彼女が放った言葉。

 鮮やか黄色の時計は、男がつけるだけでも目立つ色だった。十代や二十代ならともかく、四十代半ばのオヤジの腕に巻かれ、黄色の存在感はさらに強調されていた。


見知らぬ女性に話かけられた経験のない私は、動揺してしまい

「あっ はい」という音声しか返すことができなかった。


私の日常には登場しない、自分の半分ほどの年齢の女性。

今日一日の想定にまったくなかった未知の状況。文字通り想定外の出来事だった。


彼女も、人に話かけることが得意ではなかったらしい。

思わず口から出てしまった言葉の後、我に返り

その後どうすればよいのか分からないという感じで、下を向いたまま沈黙が続いた。


こんな時つくづく自分が、重度の ”ミシリ”だと気がつかされる。

特に尊敬心や好意がある異性にたいして ”ミシリ”になるタイプだと。


いつもより長く感じた数秒後に、彼女の笑顔。

その安心感はずっと忘れられないだろう。


すべては、

数年ぶりにつけた

時計が生みだした、時間だった。



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