1
ー私はいったい何をしているのだろう?
セーラー服を着た少女は、ぼんやりと橋の上から川を見つめる。
晴れた秋空を写す水面は、今日も穏やかだ。
何のへんてつもない、平穏な日々。
しかし、少女にとってそれが憎くてたまらなかった。
――何で、何で何で何で……。
「こんなにイラつくのよ!!」
憤慨して、持っていた鞄を地面に叩きつける少女。
周りの人々は、少女を無視して通過してゆく。
憤慨する彼女が怖いのか、それとも関わりたくないのか――
はっとした少女は、鞄を拾うと傍にあるベンチに座った。
それから、深く溜め息をつく。
何故こんなにイラついているのか?
少女が思い当たることはたった一つしかない。
「絶対アイツのせいだ。アイツが思い詰めて、一人で……」
「アイツって何?」
少女の独り言に声が重なった。
「うっうわあぁぁぁ!?」
驚いた少女は思わず顔をあげる。
視界に映ったのは、自分と同い年ぐらいの可愛らしい少女だった。
白く長いふわふわの髪に淡い紫色の瞳。
ブレザーの制服ということは、他校生だろうか。
近所で見かけない制服に少女は警戒した。
「なっ何よ……いきなり話しかけてきて」
「あぁゴメン。何か辛そうな顔してるから、気になって」
そう言うとブレザーの少女は、「話しかけないほうがよかったか?」と少し申し訳なさそうにした。
可愛い見た目に反して男っぽい口調なのが多少気になるが、様子から見るに悪い奴ではないのだろう。
ここで怒るのもおかしい気がしたので、とりあえず言葉を返す。
「いや、別にいいけどさ……どうせ暇だし」
ぶっきらぼうに言うと隣のベンチを指さし、「座れば?」と勧める。
頷いたブレザーの少女は隣に座り、鞄を置いた。
「あんた名前は?」
「名前?……カンナ。君は?」
「沙羅よ」
「そっか沙羅っていうんだ。よろしく」
ブレザーの少女――カンナはふわりと微笑む。
その優しい微笑みに、沙羅は一瞬警戒心が薄れた。
カンナが沙羅の持っている花束に視線を向ける。
「綺麗な花束。それ、彼岸花だっけ?」
言われて沙羅ははっとする。
――そうだ、この花束は……。
「そんな素敵なものじゃない。これは怨まれて渡されたのよ。アイツにね」
思わず花束をぎゅっと握る。
イラついてる原因であり、一生の傷の象徴たる彼岸花の花束。
――そうよ、これのせいで私は……。
花束を握る手にカンナがそっと手を重ねる。
「さっきから言ってるその『アイツ』。よければ教えてくれないか?」
カンナが心配そうに沙羅の顔を覗き込む。
沙羅は、初めて自分の手が酷く冷たくなっていることに気づいた。
「さっ触らないでよ……」
沙羅はばっと手を離す。
――私の話を聞きたいなんて、変な奴。
今まで話しかけられたことすらなかったのに、話しかけ心配してくれるカンナの存在に沙羅は酷く戸惑った。
でも、心のどこかで少し嬉しく思う自分がいる。
「いいよ」と素直に言えばいいものの、沙羅の口から出たのはつっけんどんな言葉だった。
「別に話してもいいけど、楽しくも何もないからね」
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