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ー私はいったい何をしているのだろう?


セーラー服を着た少女は、ぼんやりと橋の上から川を見つめる。

晴れた秋空を写す水面は、今日も穏やかだ。


何のへんてつもない、平穏な日々。

しかし、少女にとってそれが憎くてたまらなかった。



――何で、何で何で何で……。


「こんなにイラつくのよ!!」


憤慨して、持っていた鞄を地面に叩きつける少女。

周りの人々は、少女を無視して通過してゆく。

憤慨する彼女が怖いのか、それとも関わりたくないのか――

はっとした少女は、鞄を拾うと傍にあるベンチに座った。

それから、深く溜め息をつく。

何故こんなにイラついているのか?

少女が思い当たることはたった一つしかない。


「絶対アイツのせいだ。アイツが思い詰めて、一人で……」


「アイツって何?」


少女の独り言に声が重なった。



「うっうわあぁぁぁ!?」


驚いた少女は思わず顔をあげる。

視界に映ったのは、自分と同い年ぐらいの可愛らしい少女だった。


白く長いふわふわの髪に淡い紫色の瞳。

ブレザーの制服ということは、他校生だろうか。

近所で見かけない制服に少女は警戒した。



「なっ何よ……いきなり話しかけてきて」


「あぁゴメン。何か辛そうな顔してるから、気になって」


そう言うとブレザーの少女は、「話しかけないほうがよかったか?」と少し申し訳なさそうにした。

可愛い見た目に反して男っぽい口調なのが多少気になるが、様子から見るに悪い奴ではないのだろう。

ここで怒るのもおかしい気がしたので、とりあえず言葉を返す。


「いや、別にいいけどさ……どうせ暇だし」


ぶっきらぼうに言うと隣のベンチを指さし、「座れば?」と勧める。

頷いたブレザーの少女は隣に座り、鞄を置いた。


「あんた名前は?」



「名前?……カンナ。君は?」


「沙羅よ」


「そっか沙羅っていうんだ。よろしく」


ブレザーの少女――カンナはふわりと微笑む。

その優しい微笑みに、沙羅は一瞬警戒心が薄れた。

カンナが沙羅の持っている花束に視線を向ける。


「綺麗な花束。それ、彼岸花だっけ?」


言われて沙羅ははっとする。


――そうだ、この花束は……。


「そんな素敵なものじゃない。これは怨まれて渡されたのよ。アイツにね」



思わず花束をぎゅっと握る。

イラついてる原因であり、一生の傷の象徴たる彼岸花の花束。



――そうよ、これのせいで私は……。



花束を握る手にカンナがそっと手を重ねる。


「さっきから言ってるその『アイツ』。よければ教えてくれないか?」


カンナが心配そうに沙羅の顔を覗き込む。

沙羅は、初めて自分の手が酷く冷たくなっていることに気づいた。


「さっ触らないでよ……」


沙羅はばっと手を離す。



――私の話を聞きたいなんて、変な奴。



今まで話しかけられたことすらなかったのに、話しかけ心配してくれるカンナの存在に沙羅は酷く戸惑った。

でも、心のどこかで少し嬉しく思う自分がいる。

「いいよ」と素直に言えばいいものの、沙羅の口から出たのはつっけんどんな言葉だった。



「別に話してもいいけど、楽しくも何もないからね」

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