彼岸の花束

有里 ソルト

オープニング

――さようなら。



そういって、アイツは笑った。



ゴメンね、ゴメンねって――



何で謝るのさ、何で笑いながら泣いてるのさ?


謝るくらいなら、泣くくらいならそんなところから離れてよ。

いつもみたいに冗談だよって笑ってよ。


私がダメだって、危ないって、どんなに叫んでも声が届かない。

涙を流しながら困ったような微笑みを浮かべるアイツは、酷く遠い人のように見えた。



腕の中の赤い花束が風に靡く。


それを合図にしたかのように、アイツの体が傾いた。

そのまま、彼方へと消えて行く。



「待って!!」



私は弾かれたように走り出す、消え行くアイツの元へ――



それからは覚えていない。


ただ一つ、絶望を暗示する真っ赤な花弁が、脳裏に焼き付いて離れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る