未来への花束

ある女性がベッドに横たわっていました。


体は常に芯まで冷えており、およそ熱と感じるものをもっておりません。


傍らには小さな花瓶がひとつ、その中にはとても小さな花が一輪。


力強くもなければ、生命力に満ちているとも言い難い花が一輪。




彼女は今日も花に問い掛けます。


おはよう、今日もそこに居てくれたのね、ありがとうと。


花は黙して語る言葉を持ち得ません。


それでも彼女は花にこう問い掛けるのです。


あなたも少しは笑って下さい、私が何だか惨めみたいじゃないですかと。




何を言っておられるのか、気でも狂ってしまわれたのか。




彼女の言葉は止まりません。


あのね、もう戻れない道に進まなければいけないみたいなのと。


そうですか、強制される道も時には悪くはないでしょう。


彼女は空を仰ぎます。


それからはね、ずっと祈っていたの。誰もが幸せになれる世界の存在を。


そんなもの在る筈がないし、在り得える可能性もないでしょう。


彼女が重ねて空を仰ぎ見ます。


無いってわかってるから祈ってるのよ、本当は知ってるくせにね。


神様なんかが叶えてくれなくても、誰かがそれを望んでも罰はあたらないでしょうと。




力が欲しいと思いました、分不相応で身の程知らずな力が欲しいと思いました。




彼女は歌うように花に問います。


ねえ、少し情けない事を言ってもいいかしらと。


花は黙して語る言葉を持ち得ません。


彼女は重ねて歌い続けます。


ねぇ、世界にはどれだけの想いが溢れているのかしら。


私はそれを知っていたはずなのに、もう思い出せないくらいの過去になってしまった。


これが信賞必罰っていうんなら、誰か教えてくれないかな、私は何をしてしまったんだろうと。




ねえ、私の何が悪かったのかな?




そう言った彼女の顔は諦観ではなく希望だったのです。




彼女は目を伏せこう言います。


ごめんね、もうすぐあなたに水をあげる事も出来なくなる。


でも、もしもこの場で枯れないままでいてくれたなら、叶えて欲しいのと。


花は黙して語る言葉を持ち得ません。


私の祈った世界、私の理想の世界、それを誰かが少しでも束にしてくれたなら、それは素敵な話じゃないと。




これほど自分の無力を恨んだ日は、これをおいて他にありません。




彼女の言葉を私はいまでも思い出すのです。

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