琥珀の涙

ある日私は旅の途中で足を止めました。


水平線に広がる海を眺めながら、どこまでも続く空を眺めたまま。


行先はどこなのでしょうかと、一人訪ねます。


行く宛など無いではないですかと、一人答えます。




とても硬く大きな流氷が波に飲まれ、どんどんどんどん小さくなりました。


とても広く大きな雲が風に流され、どんどんどんどんちぎれていきました。


もとより、そこに原型があったのかどうかさえ、もう分からないのです。




叶わない奇跡に縋り付いた自分はとても無力だったのです。


報われない最期を見せつけられた私はとても無様だったのです。


誰かが何かに縋り付いたとしても、見守る事しか出来ない愚かな人間だったのです。




私は問い掛けます。


過去に重きを置き、未来を閉ざすのは愚か者の所業だと。


有り得なかった世界がそれ程までに恋しいのかと。


私は重ねて問い掛けます。


過去に礼をし、未来に繋げたかっただけなんだと。


見果てぬ世界は今でも夢の中で見続けているんだと。


私は三度問い掛けます。


何が悪かったのか、何故それが選ばれてしまったのか、何故こうも世界は温かいのか。


結果的に、私はこの世界を憎む事が出来なかったじゃないかと。


奪われてもなお、私はそうしてここまで来たんじゃないかと。




とても硬く大きな岩が波に煽られ、真っ二つに割れてしまったのです。


とても遠く大きな月が雲にまぎれ、その姿を無くしてしまったのです。


太陽など、初めから見えてはいなかったのです。




一筋の涙が流れました。




私は問い掛けます。


はじめから終わりまで貫き通せましたかと。


それならば、それは純粋に重く透明な涙でしょうねと。


私は重ねてこう答えます。


誰かが願った世界を叶えようと、私は自分の解釈を押し通し続けたのです。


だからこそ、この涙はとても軽くとても濁っているんですねと。




かつて少女に言った言葉が思い出されます。


私は救いなど求めてもいなければ、存在すらも信じていません。私には理解出来ない言葉ですと。


これは大きな間違いです。


私は常に救いを求めていましたし、その存在に縋り付いていたのですから。




ただ、あまりにも臆病すぎて、大切な言葉に耳を塞いでしまったのです。


分かった様な顔をして、歩き続けたのです。




今日も何処かで誰かが求めている。


ならば、この旅は終わる事なく続く事でしょう。


それだけが、残された唯一なのですから。


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