猫と想い

ある日少女は猫を拾ってきました。


首輪も無く、薄汚れた体のとても貧相な子猫を。


みゃあみゃあと鳴く声に合わせて、少女もみゃあみゃあと続けます。


意思の疎通がある訳でも無いのに、それはまるで仲の良い姉妹の様です。




私の膝にも猫が乗ってきました。


困った事に、懐かれるという事に程遠い私は、どうすれば良いのかわかりません。




少女は私に助け舟を出します。


頭を撫でたり、顎の部分をさすってあげればいいのよと。


恐る恐る言われたとおりに頭を撫でます。猫はその目を細め、アンニュイに鳴き声をあげます。


私にはそれがどういう感情に寄るものかはわかりませんでしたが、悪くは無いのだろうなと感じました。


少女は私にお願いします。


この猫をうちで飼う事は出来ないかなと。


断る理由はありません。それで彼女とこの猫が少しでも幸せになれるなら、むしろ願っても無い事です。


いつまで経っても猫は私の膝から降りません。


君の救い主は私ではなく彼女だと、言い聞かせようにも言葉が通じません。


仕方なしにその背を撫でます。なるほど、これは暖かい。とても良いものだと。


少女が私に笑いかけます。


まるで小さな子供みたいね、嬉しいという感情を初めて知った無垢な赤子みたいと。


確かにそれは的確な表現かもしれません。私も似た様な意見です。


生まれて初めて知った喜びを覚えていますか?


残念ながら私の記憶には存在しない破片です。そもそもそんな物が在り得たのかすらわかりません。




少女は黙って私の膝から猫を抱き上げます。


これからあなたは私達の家族になるのよと。


重ねあわせと言えば語弊があるかもしれませんが、彼女はかつての自分と照らし合わせたのでしょうか。


寸分違わぬ同じ言葉を、昔どこかで聞いた覚えがあります。


彼女は猫を抱きながら言い聞かせます。


ここがあなたのお家だと。ここがあなたの帰る場所だと。


自由にさせてあげれば良いものを、生存本能以外は無いでしょうに。


それでも彼女は繰り返します。


ここがあなたのお家だと。私がずっと面倒をみてみせるわと。


いや、感無量と言うべきでしょうか、少女の成長と心持ちに喜びが隠せません。




少女はあらためて紹介します。


この子が新しい家族だと。もう一度、抱いてあげなさいよと。


是非もありません。私は猫を受け取り撫で続けます。




そう、これがあなたが感じた気持ちなのねと少女は微笑みます。

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