銀幕のスター
ある日少女は歌を歌っていました。
銀幕を降りたダンサーの優しくも儚い詩。
この世に愛など無いと、私には希望が持てないと叫びます。
同調する様に、同情する様に、少女は歌い続けています。
折れた足では跳ぶ事が出来ないわ。
たったそれだけの事で私は全ての光を失ったの。
知っている様で知らなかった。
私にはこれしか無かった事を。
彼女は歌い続けます。
伴奏も無く、演奏も無い、酷く間抜けなステージで。
客席には私ひとり、さりとて私を意識する事はありません。
ただ深く、昏く、甘い飴を噛み砕くように流麗に歌い上げます。
治った足は翼にも羽にもならなかったの。
周りの期待も関心も、唯それだけを見つめて騒ぎ立てるの。
大丈夫、元気を出しなよという声に。
私は吐き気と喪失を覚えたわ。
彼女の歌は其処で途切れ、いつもの様に私に問い掛けます。
絶望も失望も、それは本当に人を成長させてくれるのかと。
それは大きな間違いであり、自分への気休めだ。落ちた自分を慰める為の体の良い方便でしかない。
重ねて彼女は問い掛けます。
そんなに自分に優しく出来るなら、絶望も失望も悪くはないわねと。
おかしな事を言うものです。言葉では単純だが、人の闇は深い。そんなもの、味わう必要など何処にも無いでしょうに。
彼女は私の言葉にふんわりとした笑みを浮かべ、歌を唄います。
孤独を知った私は無力でした。
だから誰かが見つけてくれるのを期待していたのよ。
本当は分かってたんです。
ずっと、手を差し伸べて欲しかったんだって。
ずっと、ひとりで居るのが辛かったんだって。
銀幕には戻れないけれど、私は生きる場所が欲しかっただけ。
折れた足が翼では無くなっても、歩き出せる希望が欲しかった。
もがれた蝶は籠にいる事すらも叶わない。
なんて事でしょう。私には其れさえも理解出来てしまう。
いつか銀幕に還る為にとあなたは言うけれど。
いまは何も考えられない。いまはそんな事も考えない。
その願いをあなたは罪と呼ぶのでしょうか。
彼女は一息でそう言うと、最後に笑ったのです。
ねぇ、あなたはこの歌に聞き覚えがない? と最後にそう呟きました。
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