視点:僕with彼女―3
「いや、だから。僕の話しているのは、世界滅亡についてだよ。最初っからこの話題しか話してないさ」
「え、でも。貴方、記憶の話をして寄り道食ってたような気がするけれど」
「ああ、それは、必要経費っていうか、なんて言うか。必要な内容なんだ」
とにかく。
「僕が言いたかったのは、世界を滅亡させるには別に暴力的なことはしなくてもいいってことさ。無論、月を地球にぶつける必要も何もない。いや、こういうとなんだか簡単に世界滅亡を引き起こせて、あたかも月をぶつけた程度で地球が滅亡するみたいなニュアンスになるな」
僕はそこで話を一旦切ってから話を続けた。
「確かに、月が真っ正面から地球にぶつかると、世界は滅亡するだろう。でも、別段回避することが不可能じゃないだろう? 地球には今、少なくとも一五〇〇〇発以上の核兵器があるんだ。隠しているものを合わせて全て打てば、月の軌道を地球から外すぐらいのことは可能だ」
「ふーん。なんかそこはかとなく暴論のような気もするけれど、事前に分かってれば確かに対策はできそうね。地球に落ちてくるまでに数日程度は猶予があるものね」
彼女の発言にうなずきを返した。
「同じような理由で全面核戦争も回避できる。で、だ。僕が思うに、世界滅亡は武力とかそういう直接的な力ではなしえないと思うんだ。まあ、強力な力を駆使するにはそれ相応の準備が必要だから、仕方ないのだが。
だから、現在起っている世界滅亡というのは、まったくのでたらめなんだよ。一、どうして今日の零時ぴったりに滅ぶのか。あまりにも謀ったようじゃないか。それゆえ僕はこう考えるんだ。これは人為的に引き起こされたと。じゃあ、そいつがどうやって滅亡を狙っていると思う? 僕は記憶を消すという方法を採用しているんだと思う。といのも、記憶を消すと当たり前だが、人類の文明は一気に壊れる。今まで操ってきた機械の使用方法が分からなくなのだから、まあ当たり前だね。その上、知識を失った人間達が原始的な営みだけで生きていけるほど、今の地球は優しくはない。地球の環境を変えてきたツケを払わされるという感じだね」
「ああ、なるほど。だから貴方は一緒にデータに埋もれて死のうだなんて言い出したのね。貴方だったら、月が落ちるとなれば最後に素晴らしいデータが取れると言って歓喜するはずだから、違和感があったのよ。確かに記憶を失うのは堪ったものではないものね。でも……」
「まあ、疑問に思うよね。それこそ、全世界の人を一斉に記憶喪失にできるのかって。しかし、その点に限って言えば僕はできると答えられる。新薬のことは知っているよね? そう、あの精神の方から肉体にアプローチして治療するやつだ。じゃあ、もう少し詳しく説明しよう。ここで言う精神というのは、無意識――もっと言えば集合的無意識のことを指す。つまり、僕達の根源。人間として繋がっている共通のところだ。アレは、そこを健康的な人に近づけることで治しているんだ。ほら、あるだろう。病は気からって。いや、冗談だ。というか、集合的無意識と肉体の関係については君はお前は知っているだろ?
まあここで押さえておくべきは、あの新薬は集合的無意識を通して全ての人類に送り込むことが可能ってわけだ。時刻が綺麗に決まっていたのは、制作者がそう意図したからだろう。僕達は何事にも意味をつけたがるのだから。……これで、理解できたかな? とはいえ、これが意図的な拡散だったのか何かの失敗だったのかは流石に分からないけどね」
「ええ、バッチリ。つまり、新薬を悪用して記憶を消す薬が作られ、それがばらまかれたわけね」
「ああ、そうだね。しかし、僕のあれだけの会話はそんな短い文字数にするのは、関心しないなあ。まるで、僕が口下手みたいじゃないか。だから、悪用したと言い切りことはできないという訂正を入れておくよ」
スッキリしたといった感じで彼女は燃え盛る炎の中、近くのいすに腰を下ろした僕は最期までデータに囲まれ、そして最愛の妻(変人)と一緒に死ねることをとても嬉しく思った。
もっとも。
「あいつも、ここにいればよかったんだけど、流石に若い芽を摘むことはできないよな」
今頃どこで何をしているのか分からない、息子のことを思いながら僕はぼそっと呟いた。
とと、いかん。僕達の身はデータと伴に朽ち果てるのだ。そうでなくてはならない。
見ると、彼女は炎の中に完全に取り込まれてしまっていた。僕は、それに近づいていってその中に飛び込もうとした。しかし、直前で、白衣の中から財布を取り出した。そこには三人の親子の写真。僕は最期にこのような嬉しい偶然に出会えたことに感謝しつつ、今度こそその中にへと飛び込んだ。
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