視点:僕withアンドロイド―2

 僕はまず、近くのコンビニまで走った。

 世界滅亡と聞くと、街は大混乱に襲われて暴徒と化した市民により、蹂躙されているというようなイメージを抱いていたというのが正直なところだ。しかし、結果としてそれは杞憂以外の何ものでもなかった。

 僕達は精神の健康も保証されている。わずかな薬物と徹底したカウンセリングによって。それゆえ、世界が終わるという話を聞いても、ある程度は余裕を持てる。僕でさえ呼吸を乱した程度で収まったのだから。


 街は人が少ないということ以外には、別段変わった様子はなかった。コンビニの自動会計も問題なく作動しているようである。地球最後の日だというのに、依然として社会は歯車をまし続けていることに感服する。

 しかし、僕が用があったのはコンビニ自体ではない。むしろ、その横に並べてあるレンタル自転車に用があった。

 僕はもっていたカードをかざして、自転車という機動力を手にする。今目指しているところは、歩いて行くには少々遠い。一刻も早くそこに行くには、これを使うしかない。自動車はどこにもあるけれど、高校生である僕は免許証を持っていない。

 

僕は自転車に跨がると言った。


「あなたも乗ってください」

「二人乗りは法律により、禁止されておりますのでご遠慮ください」


 そう言われれば、そうである。自転車の二人乗りはもう何十年も前に禁止になったのだ。自転車をあまり使わないせいかそこら辺の知識が弱かった。

 ロボット三原則に縛られるアンドロイドは、人の命令は人名を奪わない範囲で遵守するようになっている。しかし、法律も人間の命令に違いはない。この場合、どちらを優先するのか気になったけれど、国民の合意多数のもと成立しているものが優先されるのは、考えるまでもないことだった。


「……えーっと、自転車の運転はできますか?」

「できます。必要最低限の知識は埋め込まれておりますので」


 もう一台彼女の分の自転写を借りた。

 愛嬌を振りまくためにデザインされたメイド服は、スカートの長さが膝上程度しかない。それは、自転車を漕ぐ上で巻き込まれないという利点があったが、乗る際に下着が見えやすいということでもある。

 とはいえ、アンドロイドである彼女は全く気にすることなく、自転車に跨がった。スカートは翻り、中身は当たり前のように晒されてしまうが、彼女は平気そうだった。羞恥心のない彼女の威風堂々ぶりはむしろ僕を狼狽ろうばいさせた。

 ただ、あまり余裕のない現状において、正しい反応というのは彼女のことを指すに違いなかった。今はそんなことに気を取られている暇ではないのだ。一刻も早く両親の元へ行くべきだ。


「じゃあ、ついてきてください」

「了解しました。くれぐれも安全運転を心がけるようにお願いいたします」


 僕は頷いた。

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