宇宙開発事業へようこそ!

苔氏

第1話

2050年、宇宙エレベーターが完成した。それを皮切りに宇宙開発事業が発展していった。これはその開発事業で働く1人の物語である。



「よし、ここだな」

ガチャ、ドアノブを回し部屋へ入った。

「はじめまして今日からお世話になります、浜風条はまかぜじょうです。よろしくお願いします。」

条の声は室内に響き渡った。室内は、十数人が一人一人、デスクを持ち仕事をしていた。条の声で一斉にこちらへ顔を向けたのだった。

「おぉ」

少し怖気付おじけづいたが奥から歓迎する声が聞こえて来た。

「いやー待っていたよ、面接の時で2回目かな?久しぶり、改めまして、ここの部長をしてる、五島ごとうです。これからよろしく。」

すかさず握手を求めて来たので握手をした。

「こちらこそよろしくお願いします。」

すると手を肩に回し部長が社員全体に僕の紹介をしてくれた。

「今日から一緒に仕事をする浜風条君です。分からない事ばかりだと思うのでしっかりと教えてあげてください。じゃあ条君はあそこの空いてる席に座ってください。隣の松輪まつわさんから色々教えてもらって下さい貴方の直属の先輩となる方です。」

「は、はい。」

指さされた方向の空いてる席に立ち、隣の松輪さんに一礼した。

「松輪さん、よろしくお願いします。」

「こちらこそよろしく。」

少し冷たく多分クールと言うのだろう、条が礼をすると松輪はイスに座りながら礼をした。条はイスに座りパソコンに電源を入れた。そうすると松輪は話し始めた。

「いい、私たちは資材調達部です。宇宙で作業している人たちを地球からサポートするのよ。私たちがミスをすると宇宙で迷惑がかかってしまう。このミスは会社の利益にもつながるの、だからミスは許されないわ。だからしっかりと話を聞くこと。」

松輪は人差し指を上へ掲げながら話をした。

「おいおい、松輪、新人に厳しすぎないかい?私は河内かわち、新人君よろしくね、お近づきのコーヒーを」

少し松輪をイジる口調でニコニコと話しかけ、条にコーヒーを渡した。

「よろしくお願いします河内さん。コーヒーありがとうございます」

「君は現役で大学卒業?」

「はい、でもなんでですか?」

少し疑問だったので質問してみた。

「君もそして少し威張ってる松輪も同い年なんだよ、松輪も、同い年だから舐められないようにクールぶってるだけだから」

「あ、はい」

条は少し気の抜けた返事をしてしまった。そうすると、手で囲いを付け、話し始めた。しかし松輪の聞こえる声で。

「あの子も初めは、結構ミスしてたからあの時は大変でさ、酸素タンクを....」

「ああああ、やめて下さい。ほらパソコンついたので仕事始めますよ。先輩も自分の仕事して下さい。」

「じゃあそう言う事だからまぁ緊張せずに気楽に行こう、気楽にね」

松輪は頬を赤らめながら河内を持ち場に戻し、そしてパソコンの方を指差しそちらを向いた。この時条は不覚にも「かわいい」と思ってしまった。

「私たちが担当するのは、第7、8浮遊石収集隊です。わかってる通り宇宙に漂ってる石を集めその中のレアメタルを取る仕事です。このメールを見て下さい、ここに今どんな物が必要かと言うのが送られて来るのでこれを見て物資を送ります。送り方はカーソルを物資欄に必要な物資をクリックして、数を打ち込んでエンターを押して下さい。一度やってみて下さい。」

条は説明通りに仕事をし物資が(多分)届くようになった。

「私たちの仕事はこんな感じです。」

仕事に慣れ一ヶ月が経ちかけたある日。

「酸素タンクを5Lと」

カタカタ仕事をしていると

「条さん仕事には慣れた?」

「はい松輪さんのおかげで。」

「あっ、当たり前じゃない。私を誰だと思ってるの。」

ニヤニヤしながら照れ隠しであろうか、背中をパンパンと叩いてきた。

「松輪さん痛いですよ。」

あまり仕事がない事から少し談笑していると

「あらあら二人ともイチャついて、若いっていいね」

コーヒーをすすりながら河内さんが話しかけてきた。

「やめてください、先輩!私達はそんなんじゃないありませんから」

少し頬を赤らめ、慌てて松輪は、反論するかのように河内に訴えかけた。

条が、そのほのかにピンク色になる顔を見惚れていると。

「条さん、この資料をコロニー建設部に持って行って下さい」

話を変えるかのようにダンボールを指差し、10kgほどの資料を持っていくように命令した。

建設部に入ると部屋のあちらこちらで話し合ったり、設計図とにらめっこしてたりと調達部とは全く別の雰囲気だった。

条に気付いた男性がこっちに来た。

「これどこ置けばいいですか。」

「ごめん、こっち置いてくれ、てか君見ない顔だけど新人?」

「はい、新しく入りました。浜風ですよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、いやぁ調達部はいいなこっちも人で不足なんだよね」

男性は苦笑しながら愚痴をこぼした。

「突然だけどロボットの免許持ってる?」

「はい持っていますが、私の父はそのロボットで命を落としました。なので少しは抵抗がありますね」

「嫌な事思い出させてしまったね。」

「大丈夫です。僕は成績トップだったので、ヘマはしませんよ」

「そりゃ安心できるな」

談笑していたが男性も忙しいそうだったので

いとましようとした。

「じゃあ、頑張って下さい。僕はここら辺で」

「資料ありがとう。また頼むと思うからよろしく」

条は慌ただしい部屋から出て元の資材調達部に戻った。

次の日、会社に行きデスクに座ると五島さんがやって来た。

「条くん突然だけど君は宇宙に上がってロボットで作業して下さい」

「はい?」

条は突然の事で気の抜けた返事が出てしまった。

「先日流星にぶつかって、ロボットパイロットがね、動けなくなったんだよ。人員を割ける事が出来るのここだけだし、ロボット免許持ってるのが君だけだから君しか居ないんだよ。大丈夫、代わりが入るまでの間だから。だけど上からの命令だから拒否権はないよ」

「ええええ」

条は一ヶ月で部署移動になってしまった。

その日の夜、条の為に三人で酒を飲みに行った

「さみしいねえ松輪、折角の後輩が」

河内は松輪に投げかけた。

「本当よ本当上からの命令らからって...ヒック」

酔いが回り呂律が回らずしゃっくりをしながら不満を吐いた。

「いやぁ、代わりが来るまでの間ですから。」

少しツッコミを入れるが二人は何も聞かずにお酒を飲んでいた。

「嫌だよぉ」

急に松輪は涙を流し始めた。条は突然の事でびっくりした。この子は泣上戸なのか?

「どうしたんですか?急に」

「まだ言ってないと思うんだけどね、松輪は君の事が...まぁ察して」

酒の勢いなのか急にカミングアウトしてきた。

「はぁ!?松輪さん、そうなんですか。」

「もうなんれ言っちゃうの!」

上目づかいで条の顔を見た。

「じゃあ僕が上から帰って来たらお付き合いしましょう」

「ほんとに?」

「本当です!嘘はつきません」

「ふふ、条くん絶対帰って来てね..」

バタ!

嬉しさのあまりか、そのまま床に突っ伏し寝てしまった。

「あーあ、この子ったら酒弱いのにこんなに飲むもん。家まで送るから」

河内が松輪を背負い、店を出ようとした。

今夜は松輪の酔い潰れで会が終了した。


出発当日宇宙エレベーターに向かった。その日の昼、条は宇宙へ上がった。エレベーターはロケットとは違い、速度は遅く宇宙までは13時間かかった。次の日、条は始めて無重力空間を味わった。

「うわぁ、本当に身体浮くんだな」

条が無重力に感動していると、ぴぴっ!デバイスが鳴った。

「そろそろ着いた?条くん頑張って」

デバイスを見ると松輪からのメールが来た。条はこの時「松輪さんの為にも必ず帰る」と心に誓った。

宇宙エレベーターのホームは白を基調として清潔感が漂っていた。ホームの中の重力は月と同じ0.6Gと身体が軽く感じられた。

数時間後

待ち合わせの場所に行くとそこには宇宙服を着た十数人が待っていた。

「君がジョウ、ハマカゼだね、私はこの艦のキャプテンのアーレイだ、nice to meet you」

「nice to meet you too.」

うお、まじかよ英語喋れんぞ。条は、なけなしの英語で母艦まで歩きながら、コミュニケーションを取った。

「Ah. I don't speak...」

「ハハハ、ダイジョブです私はニホンゴ話せます。」

さっきまでの心配は吹き飛んだ。

ばっ!条は立ち止まった。何事かと船員がこっちを見て立ち止まった。

「浜風条!ロボットのパイロットとして今一度よろしくお願いします。」

「あぁこちらこそよろしく、そしてようこそ我が船に!」

アーレイ艦長は条の事を歓迎した。

そして、目の前には灰色を基調としオレンジ色がアクセントになっている、箱型の大きな母艦が目の前に鎮座していた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙開発事業へようこそ! 苔氏 @kokesi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ