第9話タイムリープ2日目ー4
放課後。
俺は、入学式の間どうやれ仕事がない田舎でバイトができるかを必至に考えていた。結果、そもそも仕事がないんだからバイトなんて無理だな、という結果に陥って立ち直れないでいた。念のため、タウンワーク的な雑誌を探すことにはしていたが。でも、田舎にもあるのかなタウンワーク。
俺はため息をつきながら、下駄箱に靴を放り込む。
その前に、妹の真理を迎えに行くべきだろうか。まだ、この時間軸では何も起こってはいないが、大和はこの後に殺人を犯すのだ。大和の謎も解決しなければならないが、真理の安全も守らないといけない。いや、俺が大和と仲良くするのだから、真理とはあまり関らないほうがいいのだろうか。
「おい」
後ろから、声をかけられた。
俺に声をかけたのは、大和だった。
「バイト先を探しているんだよな」
大和は、どうやら教室で俺と雄二の会話を聞いていたらしい。
「ああ。でも、田舎に働くところなんてないんだろ」
俺の言葉に、大和は頷いた。
否定しろよ、このヤロウ。
「近くの図書館で、五月にイベントがあるんだ。そのイベントを手伝ってくれる学生を募集することがある。一応、小遣い程度だけど給金もでるらしい」
大和の言葉に、俺は毒気を抜かれた。
初めて聞く、情報であった。それに、やっぱり大和のイメージは殺人鬼と結びつかなかったのだ。殺人鬼はもっと他人に興味がないようなイメージなのに、大和はちゃんと他人に興味がある。
「そうなんだ……ありがとう」
ちょっと調べてみる、と俺は大和に告げる。
大和も今から帰るところらしい。俺は自転車だが、同じ時間帯に大和が帰るのならば真理をあえて迎えに行かないほうがいいなと思った。別に約束しているわけではないし、真理と大和を合わせるのはリスクが大きすぎる。
「お前、結局部活は入るのか?」
気になっていることを尋ねてみる。
大和は首を振った。
「入らない」
まぁ、そうだろうな。
あれだけ昌治と険悪な仲になったんだし。大体分かっていたので、これはあくまで確認である。大和は、なぜか俺が靴を履くまで待っていた。
「……帰らないのか?」
俺が尋ねると、なぜか大和のほうが不思議そうな顔をする。
いやな予感がした。
「料理を作るんだろ」
大和の言葉に、俺は思わず「今日からかい!」と内心突っ込んだ。俺に料理本をくれたときから、気がついておくべきだったのかもしれない。
「……いいけど」
「じゃあ、お前の家にいくか」
家にくるんかい。
大和を家に入れるということに、俺は抵抗を感じた。だが、大和のことを知るのならば断るのも悪手かもしれない。それに考えを変えれば、まだ大和が殺人を犯すには時間があるのである。今日は、家に招いても大丈夫かもしれない。
「じゃあ、案内するから。それにしても、お前って料理本を常に持ち歩いているのかよ」
笑いながら、俺は大和に尋ねる。
あれには、びっくりした。それ以外にも、地味に大和にはびっくりさせられることがたくさんあったけど。
「……」
大地は、俺のほうをじっと見つめていた。
「なんだよ」
「知っていたかと思って」
大和は、はぁとため息をついた。
「すまん。てっきり、知っていたか俺に声をかけたと思った。さっき渡したのは、母親が出した本なんだ」
大和は、足を止める。
「独身時代に死んだ母親が何冊か本をだしてて……家にその在庫がたくさんあるんだ」
死んだ、と言う言葉が俺にはとても嫌なものを覚えた。学校の玄関で殺された女子生徒――美羽の死体を思い出したからなのかもしれない。
「母親が殺されたときには、このあたりでけっこう噂になったから……それで母親のことを知っているのだと思った」
殺された、と言う言葉に俺はぞくりとする。
美羽の死体のことをもっとリアルに思い出して、血の気が引いていった。顔色がみるみる内に悪くなって、大和が俺を心配する。
「大丈夫か?」
「ああ……平気だ」
あの事件は、この時間軸ではまだ起こっていないことだ。気にするな、と俺は自分に言い聞かせる。
「何、作る?」
俺は、大和に尋ねる。
もうスーパーは開いている時間だし、材料は買って帰ることができる。
俺と大和は、作るものを話し合いながらスーパーへと向った。俺は、そこで田舎のスーパーの品揃えの悪さに驚くことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます