第8話タイムリープ2日目ー3
「よろしくな」
クラスメイトになった昌治と大和と俺は、初対面の挨拶をした。
二人の雰囲気はギスギスとしている。校庭で殴りあったのだから、当然である。二人は腫れ者に触るようにクラスで扱われていた。最初に話しかけたのが、俺だった。
二人とも、ぶすっとした顔で俺のことを見もしない。これはどちらかと仲良くしたら、片方と仲良くするのは無理である。今回は、大和の行動を変えることに絞ろう。そう決めた俺は、大和に笑いかける。
「お前、部活は決めたか?」
大和は、無感情に「入らない」と答えた。
思えば、男子が集まっているのは家庭科部である。そこに入部しようとすれば、必然的に昌治と同じ部活になるわけで――そりゃあ「入らない」と答えたくもなるか。クッキーの材料を用意するぐらいに、料理好きな奴なのに。
「あのさ、俺の家……母子家庭なんだ」
俺の告白に、大和も昌治も驚く。
田舎では、離婚は珍しい。
だから、二人も驚く。それは、俺も計算していた。
「だからさ、一緒に飯を作ってくれないか。俺も作るんだけど、レパートリーが少ないからさ」
俺の誘いに、大和は目を丸くしていた。
「どうして……お前はそんな誘いを初対面の男子に向ってするんだ?」
大和の疑問。
俺は「しまった!」と思った。大和が料理好きだと分かるのは、家庭科部に入部してからのことでる。今の段階では、俺と大和は初対面だ。
「えっと……お前がピンクのエプロン買っていたのを見かけて。ほら、ボタンがクマちゃんのやつ」
苦し紛れに、俺は言い訳する。
大和は怪訝そうな顔をした。
「初対面の人間にそんなことを頼むなんて、よっぽど料理が下手なんだな」
大和は、鞄のなかから何かを取り出す。
それは、本だった。
料理本だ。
「一冊やる」
「……ありがとう」
何時も持ち歩いているのかよ、と思ったが言わないことにした。挙動不審な俺に対する、精一杯の優しさであることは分かったからである。
だが、ここで疑問が浮かび上がる。
やはり、大和の人物像は過去の時間軸で「俺を指した大和」の姿と合わないのである。似合わないと言って良い。俺と大和が離れた時間は、多くても三時間程度である。その三時間の間に、大和になにがあったのか。俺は。それを知らなくてはならない。
俺は大和からもらった、料理本を開いて見た。
極普通の料理本だったが、書いてある文体が硬いなと思った。発行年数を見ると十年ぐらい昔の本である。今は砕けた口調の料理本が主流のような気がするが、十年前は固い文体の料理本が主流だったのかもしれない。なんとなく、時代の流れを感じた。
「とげとげしい雰囲気を何とかしてくれて、ありがとうな」
気がつけば、雄二が俺に向って両手を合わせていた。まるで仏様か神様に対するような態度であった。このような仕草が自然にでるあたり、雄二も田舎育ちである。
「おおげさな」
「俺、あいつらと席近いんだよ。たく、一年間同じクラスなんて息が詰まりそうだー」
雄二は、俺の机に遠慮なく突っ伏す。
俺は、ちらりと大和と昌治のほうを見た。二人とも席に大人しく座っているが、席が近いせいもあってお互いを見ようともしない。たしかに、これは息が詰まる光景であった。
「あいつら、家庭科部に入るのか?俺も入ろうかと思っていたけど、この分なら止めようかな」
はぁ、と雄二はため息をつく。
前の時間では、男子全員が家庭科部に入っていた。だが、このままいけば大地か昌治の一方が所属するという形になるだろう。前の時間軸とそれぞれの行動が離れすぎるのは、予測が出来ない事態に陥る可能性が高いのだが……今回はもう修正の仕様がない。特に大地と昌治の仲は、修繕不可能である。事の成り行きを見守るしかないだろう。
「岬はどうする?なんか、部活に入る。あ、家庭科部以外の部活は女子の巣窟になってるからまともな活動はできないぜ。特にチームでやる運動部にいたっては、男子の受け入れ態勢すらないから」
そこらへんの話は、前回の時間軸で昌治に教えてもらった。
本当なら、俺も家庭科部に入りたいところなのだが出来るだけ大和と行動を共にしたい。昌治との様子からして、大和は部活動には所属しないだろう。
「俺は、バイトしたいから部活には入らないことにする」
そう、雄二に告げた。
雄二は、不思議そうに首を傾げる。
「ここらへんで、バイトできるような店ってあったか?」
雄二の一言に、俺はしまったと思った。
そう言えば、ここら辺は田舎過ぎてバイトできる店もなにもなかったんだった。この時間軸では昌治と友好な関係を築いていないから、農家のバイトを紹介してもらうこともできないし。
「ヘェ、ソウダッタンダ……」
「大丈夫か?なんか、顔が死んでるけど」
雄二は俺を心配してくれたが、俺は内心不安だった。このまま何事もなく時が流れたら、俺はバイト先を見つけられない。そんな不安があった。
昌治の紹介なしに、農家のバイトを探す選択肢もあった。しかし、この田舎で身内の紹介もなしに募集していないバイトが決まるだろうか。ものすごく不安だ
「タウンワークで、バイトを探さないと……」
「おい、冷静に考えろ。ここはタウンじゃないんだぞ。仕事なんて、あるわけないだろ」
雄二の言葉に、俺は益々傷つく。
昌治と仲良くしないという決断した代償は、思ったより大きかった。
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