操作
クオンクオン
短編
「そうだな、正直な希望を言うと40代くらいが望ましいんだが…」
「あ、その辺人気なんですよ、先約がいっぱいです。どうせならもっと後にしましょうよ、後なら結構空きがあります。」
「先約とかがあるのかよ、面白い設定だな、てゆうかそんなにここで予約する奴がいるのか?」
「設定じゃなく本当に、ここで予約した人に限った話じゃなく本人の意思ですよ、どの年代でもそうですが特にこの年代は自殺が多いです。」
「あ、ははは」
胡散臭さはハンパないがここは死を予約できるそうだ。旅行中だがやることもなくブラブラしているところこのいかにも怪しい男に声を掛けられた。風貌は絵に描いたような占い師という格好でフード付きの前身マントで顔も見えないように隠されている。取ってつけたような何も見えないだろう水晶を置いてある。改めて見るとこの上ない胡散臭さだ。
値段は一万円。安い値段ではないが死を予約するという設定がなかなか面白いと思ったしただの占い師に騙されるよりはこの退屈な時間の暇つぶしになるとあえて俺は騙されてやることにしたのだ。そして今に至る。
「先約で自殺ってのは今生きてる人間がその時に自殺することが今から約束されてるってことか?どうゆう理屈だよ」
「理屈とかじゃないんですよ、さだめですよ、運命と書いてさだめです。生まれた時から死は定められている。」
面白い屁理屈が聞けると思ったがこいつはやっぱり最底辺なのだろう、面白くもない、流石に無理があるというか、ありがちな答えしかできないのか。こいつをどうにかして論破して黙らせてやりたい。
「それじゃあ聞くが俺の死はもう決まってるんじゃないのか、それを今から予約するってのはどうゆう事だよ」
「ここで予約する場合は例外ですよ。ここで予約するから意味があるんです。予約すればその時間に運命は定まるのです。ここで予約すれば絶対にその日に死は訪れる、」
「絶対と言ったか、マジかお前、突然死でもするのか?デ○ノートみたいに心臓麻痺でも起こるのか?じゃあ仮に10年後に死を予約したとして明日俺が自殺したらどうだ?運命なんてハッタリだろう?」
こんな奴に俺の死を決めるなどできるはずがない、決められてたまるものか。
「できます?」
「は?」
「明日自殺できますか?首吊るんですか?包丁を自分の喉に突き刺すんですか?屋上から飛び降りますか?
そもそもあなた最初に40代で死にたいと仰っていた。だが見たところあなたの今の年齢は20代前半てところだ、今すぐ死にたいとも思ってない、死ぬ覚悟もまだなく、あと20年くらいはとりあえず生きて適当に死にたいって思ってるんじゃないですか、でも40代になったとしても自殺する程の気持ちはないでしょう、とりあえずは生きていたいんでしょ、死ぬなら死ぬでいいかな、でもその時幸せなら死にたくはないな。そんなあなたが明日、本当に死ぬか死なないかの検証のためだけに自殺できるんですか?」
できるさ、
と、言ってやりたかったが、確かに俺は現時点で自殺したいほどはこの世に絶望していないことに気付かされたため、声を詰まらせてしまった。検証結果、死にました、ではこいつに殺されたも同然だ。
「もっともここで予約した以上予約した日以外に死ぬことはあり得ないのですが、あと死因についてですか?死因はその時によって変わりますがごくごく自然で普通の死に方です。交通事故もあれば餓死とか病気とか、場合によっては心臓麻痺だってあるし、自殺も他殺もあり得る、日本人の死因は自殺が一番多い訳だし死因として自殺はもっとも自然と言えますね。残念ながら死因はこの予約では選べません、ここで決められるのは死ぬ時間だけです。ただ、高齢にすればそれだけ病気や老衰の確率は上がりますかね、逆に若いと交通事故とかいきなり殺される確率が上がるかも。あ、時間にも限度がありますから200年後とかは流石にできませんが、今のあなたの年齢なら100年後くらいならできる範囲です。でも逆に100年後にしたらそれまでどんなに辛いことがあっても苦しくても死ねないことになる。これも覚悟していただきたい。」
こっちが黙った途端に畳み掛けてきやがった、お話ってんなら少しは面白いと思えるが、こんなファンタジーで俺になるほどと言わせようとするこのバカにした態度は鼻に付く、
「これで一万か、一日1人でも釣れれば1万儲かるとはいい商売だな。」
とりあえず俺はお前に騙されてやってるんだぞってことだけは示しておきたい
「安いもんです、もしかしたらあなたは明日通り魔にでも刺されて死ぬ運命だったかもしれないのに、その運命を捻じ曲げて100年も延ばせるんですよ、命を。」
「死ぬ直前に今日のこと、予約の日など覚えてないんじゃないか」
ふと、喋りながら気づいた、
そうか、こいつの作戦はそれだ、ここで死を予約していようがしていまいが、俺の死とはなんの関係もないのだ、予約より早く死んだとしても「予約と違うじゃないか」などと文句を言える口など無くなるし、予約より長く生きている頃には予約したことなど忘れて生きているのだ。
ここで100年後を予約しても明日俺が通り魔に刺されるという確率は言えば低いが0になることはないのだ。
死んだら死んだで終了、生きても文句を言いに行く頃にはこいつはどこにもいないのだ。
それならここで一つかましてやる、
「よし、決めたぞ、それなら明日だ、明日に死を予約しよう。先約があるなんて言わせないぞ」
明日なら今日のことは絶対に覚えている、運命を捻じ曲げるというならやってみろ、明日だけ安全に過ごせばいい。明日死ななければこいつがハッタリだとわかる。
「明日ですか、いいですよ。
でもいいんですか?40代で死にたいって言ってたのに、50代とかならまだ空きがありますけど」
「その馬鹿馬鹿しい設定も聞くだけ無駄だな、明日だけでも生きればお前のハッタリが証明される。30年も待ってられるか、
明日なら今日のうちにお前はこの場から逃げ出す気かな?まぁ、それでもいいさ、1万くらいならくれてやる。」
「じゃ、いいんですね、明日で、
かしこまりました。」
奴は水晶に手を置いた、特に何か起こるわけでも無い、形だけの動作だ、今はその胡散臭さも笑えてくる。
「それでいいのか、それで明日俺が死ぬのか、まぁ、楽しみにしとくよ、それじゃあな」
食料を買ってホテルに帰るか、明日の分も買っとかなきゃな、安全を考えて明日の外出は控えよう、まさか本当に死ぬわきゃないが確かに確率は0じゃない。部屋にずっといることが何より安全である。
朝が来た、あんな奴のハッタリのために今日の外出ができなくなるのは納得がいかないが特に絶対という用もないし、ホテルの部屋でゆっくりするのは決して悪い時間でも無い。
それでも俺は十分有意義に過ごせるのだ。
やはり死の予約はハッタリだった。
その日は何事もなく1日が過ぎた、あっという間に時間は過ぎた。
その後も何事もない日々を過ごす。
交通事故にも遭わず、大きな病気にもかからず、自殺を考えるほどの絶望もない。
ごく普通の暮らしを続け、
気づけば10年、20年と月日は流れた。
40代で死にたいなんて馬鹿な考えだ、
まだまだ俺は生きる、
そしてまた、同じ朝を迎える。
「いい夢みれたか?」
誰だ、知らない男が仰向けの俺の上に乗っている。何故か身体が動かない。
「お前の決めた、予約の日だよ。」
いいや、この男を俺は知っている。この声には聞き覚えがある。ずっと昔、いや、そんなはずはない、覚えているのだ、昨日のことだ、死を予約したのは昨日なんだ、今日は昨日の明日だ、、、
「死の予約、しませんか?」
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