都心に迷う
バイト終わりに牛丼を食べて甲州街道沿いに出た。
秋の空はとっぷり暮れて赤いが、地平は見えない。
そびえ立つ摩天楼がそれを許さないからだ。
疲れを引きずりながらいつものように新宿駅に向かう。
横断歩道を渡るのを待っているときだった。20歳ぐらいだろうか。
一人の若い女性が、スマートフォンとあたりを交互に見合わしながらフラフラと歩いていた。
様相でいやでも目につく。何か建物でも探しているのだろうか。あまりジロジロ見るのも悪いので、僕もスマホに目をおとす。
…そこまで迷うか。
10m程度の距離をいったりきたりしながらフラフラと歩く。
スマートフォンを見はしているが、ほぼ地図は読めていないようだ。
現代人であそこまであからさまに迷う人がそういるだろうか。
横断歩道待ちでほとんどの人が止まって立っている状態なので、目立ち過ぎている。悪いキャッチになんて見つかったらとんでもない所に連れて行かれそうだが…。
「うぉ…」
「ご、、ごめんなさい」
ぶつかられた。二つ結びの茶髪の目は隠れて伏せられている。
横断歩道が青になって人が流れる。女性はまた逆側にふらふらと歩き始めた。
「あ、あの….何か探してますか」
ふいに口をついて出た言葉。完全に性善説で行動してしまっている。
やべえ、話しかけて不審者だと思われたら…。女性は伏し目がちに答える。
「いえ、大丈夫です、ありがとうございます」
「あ、はい…」
声をかけてしまった自分に驚いてしまったが、女性がそれを断ると少し安心した気分になった。通報されなくてよかった。
「あ。」
歩き始めた彼女が急に振り返ると一言。
「やっぱり迷ってます。」
高島屋は明治通りを南に歩いていくと現れる。
駅から少しは離れていて、どちらかといえば繁華街エリアからは遠ざかる方向に向かっていても、まだ人気は多い。
ほんの数百メートルの距離だったが、歩きながら彼女からいくつか話を聞いた。
今日新潟から一人できたこと。桜上水にあるという友達の家に泊まること。
高島屋で差し入れを買っていくつもりであったこと。
その話はいかにもお上りさんという感じで、その姿にどこかかつての自分を重ねてしまっていた。
それに呼応して自分も話をしてしまう。地下フロアで差し入れに良さそうなものが買えること。高島屋の高層フロアには東側を一望できる窓があること。
虎ノ門方面までくっきり見えて、とても気分がいいこと。
僕の知っているわずかな高島屋に関する情報を教えた。
ありがた迷惑だったかもしれないが、同じ田舎から上京した身であることを考えると、彼女を助けずにはいられなかった。
「ありがとうございます」高島屋の前まで彼女を送ると入り口まで駆けていった。
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