夕方の昏さのなかにつかれを掴む
「その荷物はこんどいて」
疲れ切った声に返事をして、なんとか段ボールを持ち上げる。
持った瞬間がちゃがちゃと鈴の音やステックどうしが触れ合う音が聞こえた。
トラックの荷台まで辿り着くころには、腕に重い感覚が蓄積している。
もう一度荷物を取りに戻る時、廣嶋とすれ違う。
「上にまだ残ってる?」
「あとティンパニぐらいだろうな」
「それがあったか」
「なあ斉藤」
歩き出そうとしたが、呼び止められた。
「今日の演奏、どうおもった」
「いやそれは…」
言わずもがなというところだろう。
「慣れてない環境だったのもある」
確かにそれはそうだ。だが、どんなステージも一発勝負であることに
不公平さはない。
「冒頭のトランペットのせいだよな」
廣嶋は右手の中三本をもてあそんで、バルブを押すような動きをする。
「いや全体的におかしかった、どこかのパートだけというわけじゃない」
「…今度は失敗しない。すまない」
歩き出した廣嶋の後ろ姿が離れていく。
背中の寂しさが、ゆっくりと逆光の赤さに溶けていく。
僕はその姿を見つめることしかできなかった。
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