【15分で書くシリーズ】スイーツ

「これは私の勝ちですね」

彼女はフォークをそっと置くと、ニヤリと口角をあげて腕組みをした。


「あれだけの大口を叩いておいてこんな一品がでてくるなんて!あなたそれでも毎月10万アクセスを誇る和菓子ブロガーなの?笑っちゃうわ」


いや、僕がそんなに君をがっかりさせるわけがないだろ!!!


「もう一回フォークを入れてみろ」


「は?」


「もう一回だ」


「もう残りがないじゃない。これ以上何を言ったって無駄よ。」


「うるさい、早くもう一回そのシフォンにフォークを入れるんだ」


「...」


彼女はしぶしぶとフォークを持って、黄金の立方体にかけた。


—————————


スイーツ脳とはスイーツを食べることなどふわふわした事象をおいもとめ、それと同じくらいのゆるい考えや倫理観をもつ人間のことを揶揄した言葉である。


木崎という、いまこの喫茶シープの一席、目の前で俺に敵意むき出しでこちらを睨んでいるこの女もその一人だろう。しかし、こいつはその辺のスイーツ脳とは違う。


この女は「100%スイーツでできた脳」である。


毎日三件はカフェに赴き、スイーツを食しては自らのブログにレビューをあげまくること三年。毎月100万レビューを叩き出す、スイーツ脳界隈では有数のスイーツ脳である。



もはやそこまでくれば、ゆるふわだとかそういうのはとうに通り越して、スイーツにかける信念までみえてくる。



だが俺もひとのことを言えたものではない。

あいつがスイーツ脳ならば、俺は「あんこ脳」である。


アンパンマンではない。


あんこが大好きすぎて、毎日和菓子のレビューをすること三年。界隈ではゆうすうのぶろがーになってしまった。


今日はこの洋菓子と和菓子の相入れない関係に終止符を打つべく、この木崎を呼び出したというわけである。



——————————



「...」


木崎はフォークをシフォンに刺すとまるで宝物でも探すかのような目つきで片割れを奥へたおす。


「!!!!!」



そのなかに広がっていたのはあんこだった。


「こんな.....ショートケーキの中にあんこを入れるなんて....!!!!邪道だわ!!!」



「でもそれを口に運んで普通にうまいだのなんだのほざいてたのはおまえだろうが」



「....!?それは...」


「これからは和菓子のレビューもしてもらう。和菓子も美味いと認めさせたからな」


「...わかったわ」


こうして木崎のブログと僕のブログには相互リンクが貼られることになったとさ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る