第9話 新しい生活
しばらくすると事の次第が明らかになってきた。吹雪に巻き込まれた時ぼくたちはすでに《空に浮かぶ島》の端の近くまで来ていた。たまたま外が夜で、気づかなかったらしい。両親たちはこの家の主人たちに助けられ、ぼくとレーナもじき救助された、という訳だ。
ぼくたちはこの村で生きていくことに決めた。なだらかな丘陵地帯に広がるこの村では、農業と酪農業で生計を立てている人がほとんどだった。ぼくたちも持ってきたお金で家畜を少し買い、使っていない農地をもらい受けて生活を始めた。レチは相変わらず機械修理をやっていた。
そうやって、ぼくたちは失ったものをひとつずつ取り戻して行った。皆に笑顔が戻ってくるのを見て、ぼくは感慨にふけった。少しくらい悪いことがあっても、ぼくらは生きていけるのだ、と。
ぼくたちはその村で、次の冬を越した。今思い出しても、この村での生活は幸せなものだった。夏から秋にかけてぼくとレーナはよく連れ立って丘を登り、谷をまたいで遠出した。そういう時、彼女はこの上なく幸福そうに見えて、ぼくはその笑顔に何度も見ほれたものだ。冬も厳冬というほどでもなく、ぼくたちは余裕を持ってその季節を越えることができた。木組みの家の中で暖炉に当たりながら皆でやがてくる春について何度も語り合ったものだ。思えば、あの頃は何も知らなかったのだ。冬の次に、もう春はやって来ないのだということを。
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