第6話 夢
ここはどこだろう。暖かい膜の中に、ぼくは柔らかに閉じこめられていた。どこかから心臓の鼓動が聞こえてくる。ぼくには周りの物は全て不鮮明で、現実味のないもののように思えた。昔、ある哲学者が戯れに「世界は30分前にそれまでの記憶と共に生まれた」と言ったそうだが、そうであってもおかしくないと思えるほど、周囲の印象は不確かで輪郭が定まらないものだった。いや、そこには論理の飛躍がある、とぼくは考えた。30分前に生まれて来たという説が連想されるのは、記憶を手繰った時であるべきだ。
記憶。一体それはなんなのだろう。物質に刻まれた配列がなんらかの機構で読み出されたときに発現する様式?そうだとすると、唯一〈現在〉のみが存在することにならないだろうか。それに、もしそうならば、記憶は想像や幻覚とどうやって区別されるのだろう。瞬間を単位とすると、時間は途端に凍りつき空間的な延長性の第4次元に堕してしまう。では、意識の持続を最小の単位なしに持続そのものとして捉えることは、果たして可能なのだろうか。例えば草原で空を見ているとする。傍らには誰かがいて、花輪を編んでいる。その時間は、いつ始まっていつ終わるのだろうか?
そこまで考えて、ぼくは身を起こした。傍らでは君が飽きもせずに花輪を編みながら鼻歌を歌っている。草原では晴れ渡った空の下で、草木が心地よい風になびいている。少し離れたところにある小川からは、水のせせらぎが聞こえてくる。ぼくは喉の渇きを覚えて、小川に向かった。
小川には大きな帆船が数隻浮かんでいて、ぼくはその一隻に乗り込んだ。船はすぐに動き出し、ぼくは甲板に出た。川岸では、君がぼくに手を振っている。ぼくは手を振り返して、別れを惜しんだ。船は川岸に広がる街を抜けて行く。大きな建物が目の前に現れて、船は玄関から中に入った。入り口には、リパーシェで《
図書館の中では銀髪の少女と黒髪の青年が熱心に本を読んでいた。ぼくは2人と話がしたくて、気づいてもらえるのを待っていた。そうやってじっと待っていると、雪が降り始めた。降りしきる雪は椅子を埋め、机を埋め、本棚を埋めてぼくを再び暗闇へと引きずり込んだ…
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