第5話 吹雪
その日から、ぼくたちの村は漆黒の闇が支配する永遠の夜に閉ざされた。数日間は、皆平静を装って生活していた。しかし、5日目になると草原で草が枯れ始めた。作物や家畜もみるみる弱っていき、7日目に、ぼくたちはとうとう村を出て行くことに決めた。ぼくたち、つまりぼくの父、母、兄、レーナとぼく、それにレチの6人は真っ暗な中めいめい重たい荷物を背負って二度と帰る事のない家を出発した。
どの方向を向けば最も早く影の外にたどり着くか分からなかったが、西の方角は避けるという事で皆一致していた。ぼくたちは北東に針路を取り、徒歩で毎日疲れ果てるまで歩いた。出発してから2日目だったと思う。何の前触れも無く雪が降り始めた。初めはまばらだった雪も次第に激しくなり、数時間後には吹雪になった。ぼくたちは慎重に進んだが、とうとう道の真ん中で立ち往生してしまった。テントを張って中に潜り込もうとした時、ぼくはレーナが見当たらないことに気づいた。誰に聞いても、皆他の人が一緒だと思っていたと言うばかりで、誰も彼女がどこにいるかを知らなかった。ぼくはこの寒さの中で自分が冷や汗をかいていることに気づいた。そんなばかな、さっきまで一緒にいたのに。
探しに行く、と言ったぼくに、父は長い糸を持たせた。片方をテントに結わえて、糸を手繰り出しながら進めば、遭難の心配が無い。そんなことも思い付かなかった自分を客観視させられた気がして、ぼくは自分が度を失っていることを自覚した。
雪は大粒で固く、顔に当たって皮膚を叩いた。踏みしめる道にはすでに脛までの雪が積もっていて、足跡をかき消していた。ぼくは凍えながら辺りを歩き回った。時間の感覚はすぐになくなった。無音で光も見えない雪原を、懐中電灯一本を頼りに歩き回った。手足の感覚が、徐々になくなり、このまま倒れ込んで眠ってしまいたいと思ったその時、視界の端で何かが光った。ぼくは最後の力を振り絞り、そこへ向かった。大きな木の陰に、レーナが倒れていた。傍らには懐中電灯が転がっている。ぼくは必死に彼女の肩を揺すった。目を覚ましてくれ。お願いだ。
自分の心臓の音が聞こえそうだった。ぼくは必死に彼女の名を呼んだ。返事はない。ぼくは全身から血の気が失せるのを感じた。まさか。彼女の口元に耳を寄せて、かろうじて息をしていることが分かった時、ぼくは安心で力が抜けて倒れ込んでしまった。ぼくはしばらくそうやって安堵に浸った後、彼女を抱き上げて歩き始めた。どのくらい歩いただろう、ぼくはすぐに何か硬い物にぶつかってひっくり返った。建物だ。助かった。
ぼくは半開きのドアを押し開けて中に入った。なかの様子から、この建物は小さな納屋のようだと思った。ドアを閉め、レーナを藁の上に寝かせた。苦労して火をつけた時、ぼくは父が持たせてくれた糸をなくしたことに、今更ながら気づいた。ぼくは、ああそうか、もう皆には会えないのだなと無感動に思った。そして、藁に倒れこむと死んだように眠りについた。
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