過去の選択 その2

「ちょっと待ったー!」


 話を切り上げ、戻ろうとした執事ヨハンを引き留める。


「第一印象から決めてました!……じゃなかった、俺はクレア様に仕える為にここまでやって来たのだ!」


 こちらを疑うような目で見る執事さん。

 だが納得させるだけの材料は揃っている!!!


「俺は『クレアを守れ』と神託作者の意向を受けたんだ!

 そもそも害するつもりなら王都事やれる力はあるし、権力者に近づきたいだけならもっといい相手がいるじゃないか!」


 そう言いながら拳を突き上げる俺。

 その瞬間すさまじい上昇気流が発生し、王都の上空に多少あった雲が吹き散らされた。


「なっ……」


 怯えて腰を抜かす門番の二人。

 しかし執事さんは身構えた状態でこちらを警戒していた。

 ヨハンさんだったっけ、この人がクレアたんの【喧々諤々の誌剣堅杖情の士】なのか?

 なかなか根性があるウホ。


「……わかりました。

 とりあえずクレア様に会っていただきましょう。」


「い、いいのですか?」


 渋々ながら許可を出すヨハンさんに、怯えながらも意見する門番A。

 門番Bは真っ青な顔をしたまま腰を抜かしているようだ。


「今見た通り、害するつもりであれば拳を前に向ければ済んだ話。

 あの攻撃がこちらを向いていれば建物ごとクレア様は潰されていたでしょう。

 ただし、あなたを雇うかどうかはクレア様次第だという事をお忘れなく。

 その場合は矛をこちらに向ける事なくどうぞお引き取り願いたい。」


 説得(?)も出来る俺のパンチは世界一だウホ!

 それじゃあ早速クレアたんに会いに行きましょうかね。


「どうぞこちらへついて来て下さい。」


 そういってきびすを返すヨハンさん。

 不安そうな門番二人を置いて、屋敷……って言いにくいなこの豆腐建築。

 とにかく建物の中に入っていくのだった。



「ヨハン殿、そちらの方は?」


 建物の中に入ると、一人の男がいた。

 おそらくは侍従か何かだろう、そんな感じの恰好をしている。

 白シャツに黒のスラックス、黒いべストで蝶ネクタイ……ってウェイターかよ!


「クローゼ殿下の護衛、ヤクト殿の紹介状を持ってやってきた者だ。」

「それじゃあ敵じゃないですか!」


 ヨハンさんの説明に即戦闘態勢を取る侍従さん。

 オー児の護衛よりよっぽど危機意識高いよね。

 ところでクローゼ殿下って誰だっけ?


「納めて下さい。

 正直この方には最強と言われているあの方でも勝てないのではないでしょうか。」

「あの方でも!?」


 はいはい、名前が出ないという事はザコですね。わかります。

 もうそのメタネタさっきもやったじゃーん!


「あの見た目は幼女にも関わらず、魔王を半殺しにして使役する事に成功したあの方でも無理だと言うのですか!?」


 ぅ ゎ ょ ぅ ι゛ょ っ ょ ぃ


 え、何その強い幼女、色々おかしくない?

 もう魔王なんて大半デコピン一発で終わるけどさ、それが出来るのも何度も異世界転移して強くなってるからこそなんだけど!


 その時、空に強力な気配を感じた。

 急いで建物から外に出ると、そこに浮かんでいたのは禍々しい空気を纏ったバケモノだった。


「あ、あれはっ!」


 急に外に出た俺をヨハンさんが追いかけてきた。

 空に浮かぶバケモノを見て驚愕の表情を浮かべている。

 どうやら非常事態のようだ。


(パンッ)


 まあデコピン一発で終わりなんですけどね☆


「えええええええええええ???」

「なあああああああああああああ?」


 出てきて即砕け散ったバケモノを見て驚きの絶叫を上げるヨハンさんと幼女。


 ……幼女?


「ワシの使い魔がああああああああ!!!」


 使い魔……幼女………あぁ!


 さ っ き の 魔 王 か !


 急に魔法陣が浮かび上がったのを見て察する俺。

 コレ魔王を倒した帰還の魔法陣だ!

 慌てて戻る時間軸や場所をの指定を書き換える。


「ごめん!俺、魔王を倒したら元の世界に戻っちゃうんだ!」


 唖然とした顔をしているヨハンさんと幼女を置いて元の世界に戻っていく俺。

 結局クレアたんに出会えなかったのが少しばかり心残りウホ。

 見てないけどクレアたん元気でねー!!!



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 元の世界に戻って来た俺は、慌てて面接の準備を始めた。

 結局ほぼ一夜漬け状態での面接となってしまったのはしょうがない。

 人生そんなにうまく行くわけがないって事は肝に銘じておこう。


「あなたの目の前に壁が立ちはだかった時、あなたは何を頼りにそれを乗り越えますか?」


 今は面接の真っ最中。

 なるべくノータイムで答えないと印象が悪いんだっけ。


「とりあえず殴って壊します!」


 ……やっちまったなああああああああああ!


 その後も素知らぬ顔で面接を続けたが、どう見ても面接官は引いていたと思う。

 なんでもパンチで解決するのは異世界だけにしておこうと心に誓ったのだった。


「こんな急に戻る事になってしまったのは、考え無しに強いやつ殴る癖がついてるからだよな……」


 面接の反省をしていたはずなのに、異世界生活の引き延ばし方について反省している時点でもう終わりじゃないかってツッコミは受け付けません。


 その後も面接の前に異世界転移が挟まれてしまい、結果面接の受け答えがゴリラ寄りになってしまうのだった。

 もちろん就職はまだ決まっていない……


 俺の冒険就活はこれからだ!


 ──ゴリラの今後の活躍にご期待ください!


 続きは無いけどね☆




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【余談】



「ワシのマオちゃんがあああああああああ」


 とある王城豆腐に、使い魔の突然の死去に嘆き続ける幼女がそこにいた。

 もう1週間は閉じこもり嘆き続ける幼女に、使用人達は心配すれど何もできない無力感に襲われていた。


「姫様!異世界からの魔王召喚魔法陣を発見しました!」


 幼女の【剣堅杖情の士】である男が、異世界から魔王存在を召喚する魔法陣を見つけてきた。

 不完全な情報をまとめ上げ、完成品として作り上げたのは才能と努力の結晶だろう。


「それでも、あのマオちゃんはもう戻ってこないのじゃ……」


 代替案はあってもオンリーワンの穴埋めは出来ない。

 男もそれは分かっていたし、それでも何かに取り組む事で元気を取り戻して欲しかったのだ。


「姫様、もうあのマオ様は戻ってまいりません。

 しかし、より強い存在を召喚する事でかたき討ちが出来るのではないでしょうか!」


 例えそれが復讐心だったとしても、生きるためには何かしらのエネルギーが必要なのだ。


「そうか……わかった、その魔法陣を試してみよう。」


 男の気持ちを汲み取り、提案に乗ってみる幼女。

 これで何が出ても、敵討ちが出来なくても。

 これ以上部下に心配をかけるのは良くない、そう一つ成長した幼女であった。


 そうはいっても幼女は少し自暴自棄になっていた事に変わりは無いだろう。

 幼女と言っても長女であるため実年齢はもう18である。

 これを気に適当な男と結婚して王位争奪戦からドロップアウトする事も考えていた。

 そのため、投げやりになっていた事もあるが、とにかくあの存在ゴリラを抹殺出来る存在なら誰でも良かったのだ。


「我がかたきを打ち滅ぼせる者よ!

 聖でも悪でも立場は問わぬ!その身を現し我が願いに答えよ!」


 光り輝く魔法陣。

 そして徐々に頭から姿を現す存在が──


「ウホっ!いい幼j──」


「送還!!!」


 こうして召喚中のキャンセルで送還され、帰還場所の指定が出来ないまま強制的にブラジルに戻されて面接に遅刻しそうになったゴリラがいたとかいないとか。

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