現在の選択 その3

「塩の代金の食料はすぐに用意させます!」


 慌ただしく走っていく村長。

 さっき置いてきた塩の代金分の麦や野菜、干し肉とかを持ってきてもらう。


 結局話し合いの結果、村に迷惑をかけないようにという事で俺がオー児について行くことになった。

 逆恨みで何かされても困るし、ここでイナイイナイしちゃうのも問題があるらしいウホ。

 度重なるお祈りでストレスが溜まってたのか、ちょっぴり残酷になってる気がしない事も無いけど残念ウホ。


 オー児はものすごく大人しくなった。

 生き埋めにされて生殺与奪権を秒で握られた結果である。

 俺の強さは十分に伝わったようですね(にっこり)


「ちんたら歩いてんじゃねーウホ。3歩以上は駆け足だウホ。」


 思っていた以上に練度が低いオー児の部下たち。

 オー児を見事キャッチしたヤクトさんとやらは多少強いみたいだけど、他は全然ダメダメだったのですよ。

 王族直属、つまり近衛ってエリートじゃないの?と思ったんだけど、一部のガチ護衛以外は貴族の次男三男とかのボンボンらしい。

 何だよガチ護衛って!ガチじゃない護衛とかただのス〇夫じゃねーか。

 全員馬に乗ってたんだけど、俺が走ってんのに馬に乗れるわけないウホ☆

 親切に鍛えてあげる事にしたので、部下たちはみんな馬を引きながら駆け足である。


「ほらほら歩くんじゃねぇ!スネ〇ヘアーにすんぞごるぁ!」

「ひぃーっ!」「ご勘弁をー!」


 何でだよともさ〇りえカワイイだろ裏山けしからん!


「んで?何でこんな人さらいみたいな勧誘やってるウホ?」


 道中暇なので、馬に乗ることを許されたオー児に事情を聞く事にした。

 他のやつらは息が上がって話せない状態だし。


「我が国での王とは人を適切に使える事を求められる。

 本人に采配する能力さえあれば、後は能力を持った人間が国をうまく回すという教えからだ。

 よって王位継承も長子継承ではなく、より良い人材を集めた人間が選ばれる。」


 なるほど……いい人材を集め、適切に采配出来ればいい王になれるという教えが、どこかでねじ曲がって人材獲得合戦になっているのか。

 しかも武力一辺倒になってないかウホ?

 俺の時代が来ているウホ?


「五男の俺にはヤクトぐらいしかまともな護衛はおらぬ。

 他は御覧の通り貴族の三男四男あたりだ。」


 次男ですらないという事は、他に有力な王族がそれなりにいるんだろうな。

 長子継承じゃないと言っても、長男や次男が有利だったりするんだろう。

 ひょっとしたら実母の家系の力関係もあるのかもしれない。

 ちょっとかわいそうになって来た気がするぞ?


「まあそれでも八女のクレアよりはマシだがn「俺その子の護衛になるぅ!」」


 え、この世界にもクレアたんいるの?美少女?おまわりさん私です!

 クレア!クレア!クレア!クレアぁぁあああわぁああああああああああああああああああああああん!!!

 あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!クレアクレアクレアぁああぁわぁああああ!!!

 あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーh(強制終了されました)


「なっ!俺の護衛になるんじゃないのか?

 何のために連れて帰ってると思ってるんだ!!!」

「うっせぇエビフライぶつけんぞ!」


「えびふらいってなんだ?」


 異世界じゃこのネタ通じないか。

 これを読んでる読者の人たちぐらいしかわかってくれな……わかるよね?わかるよね?


「えびふらいってなんか凶悪なモンスターじゃねえか?」

「あのゴリラがぶつけるような物だしな。」


 どうやらこのガチじゃない護衛、町中華ならぬ町護衛とでも呼ぼうか……

 駆け足では余裕があるようだから、全力疾走してもらおう。


「まだまだおしゃべり出来る体力があるみたいだなぁ!ほらほら走れ走れケツが無くなるぞぉ?」


 駆け足中の町護衛の後ろに水魔法や土魔法で作ったケルベロスを放つ。

 なんとなーんと!吠えながら走って追いかける機能付き!

 悪夢ランニングケルベロスの紹介です。(すごいすごぉーい!)

 今なら金貨100枚!(もう少しお安くなりませんかぁ?)

 うーん……それじゃあ金貨10枚でご提供です!(ほんとぉ!やすいやすぅーい!)


 なんかズラっぽいオッサンとその愛人っぽいお姉さまが脳裏に浮かんだ気がするけど気にしてはイケナイ。


「こいつら特訓してやるから我慢してくれ。

 俺はクレアって名前に関しては譲れない思いがあるんだっ!」


 殺気の籠った俺の熱い視線に負けたのか、無言になってしまったオー児。

 これは俺の殺気におびえているのか、少女にこだわる姿ロリコンおびえているのか…

 そそそ、そんなんじゃないもん!クレアって名前に縁があるだけだもん!


 さあ特訓のギアを上げようか!



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 町護衛が多少野生の本能に目覚めかけた頃、そろそろ野営の場所を探そうという事になった。

 このまま夜通し走り続けるのは流石にダメらしい。

 オー児が乗ってる馬も限界のようなので、大人しく野営する事にする。

 全く……根性が足りないウホ!



 さて、せっかくなので建築学科で学んだ俺の実力を見せてやろう!

 土魔法!木魔法!水魔法!火魔法!風魔法!五種混合!!!!

 !←これって正式名称エクスクラメーションマークって言うんだぜ!


「どぅおりゃあああああ!」


 俺の掛け声と共にせり上がる地面。

 表面は深緑に着色したレンガ調、森の中でのカモフラージュ効果を期待しての選択だ。

 壁も土で作るのは二層構造にし、間に木魔法で育てた草を大量に詰め込む。

 これで断熱効果のある壁として活用できるだろう。

 窓には土魔法で抜き出したケイ素を風魔法で酸化させて作ったケイ酸を火魔法で溶かしてガラスを作成!

 ついでに土魔法で抜き出した金属を使ってドアと蝶番、サッシなんかも作ってやるぜ!

 魔法で作った窓付きの壁やドア付きの壁を組み合わせ、二階も同じように作成。内装の間仕切りも作った壁が柱代わりになるからすっきりとした空間を確保出来る!

 これぞ魔法コンクリート系プレハブ工法だっ!!


「出来たぜ!豆腐ハウス!!!」


 ってなんでだよ!!!!!!!!

 技術と居住性が上がっただけの豆腐ハウスだよ!

 大学で何やってたんだ!1級建築施工管理技士の受験資格まで取ったのに!


 ……あれ?建築士じゃなくね?デザインは習ってなくね?

 建築工学で構造学とか耐久性の研究とかしてたけど、オサレな家とか習ってなくね?

 ついでにこれもって取ったの土木じゃね?家のデザイン知識に無くね?


「なんとすさまじい技術だ……

 すぐにわかるレベルの素晴らしい耐久性と耐寒性、こんなに素晴らしい家は見たことが無い!」


 オー児今そこじゃないから、デザインの話だから。

 正直野営に使うだけなら魔法で断熱と強化すればいいだけだから。

 俺の四年はなんだったんだって話だウホ。

 バカみたいに壁殴って強度実験とかしてる場合じゃなかったウホおおおおおおおお!


 もちけつ、餅つくんだ!ペッタンペッタン。

 違う!落ち着くんだ俺!

 面接の時に気づかなくて良かったと前向きに考えるんだ。

 ちょっと脳筋ゴリラ度が上がりすぎてる気がする自覚が出来たと思うんだ。

 うん、気を付けよう。そしてこの世界にいるうちに教科書読み返しておこう。


 ちょっとこの世界にいる間に建築頑張ってみよう……

 数を作ればきっとデザインも磨かれるよね。うん。

 残念ながら他の建築家の作品を見る事は出来ないけど、この世界にも家はあるし!

 早速作った家に入って勉強しようっと。


「お、おい。この家に全員入るのか?」


 なんかオー児が言ってるけど、入るわけないじゃん。

 俺一人用の1LDKだぜ?


 ……今急に一人用しか考えられない自分に絶望したウホ!

 か、彼女が出来時の為にもう少し広い家を考えておこうかな!

 動物園の檻が真っ先に浮かんだのはきっと気のせいウホ!


「自分で用意しないと訓練にならないウホ(にっこり)」


 素敵な笑顔でオー児を見ると、さっと目をそらされた。

 あれ?笑顔だったのにおかしいなぁ……


 町護衛達は期待していなかったのか、既にテントの準備を始めていた。

 自力で野営できないとダメウホ。

 しょうがないウホ。



 翌朝出発前に家を殴って解体したんだけど、誰も何も言わなかったウホ。

 魔法も使ってちゃんと元に戻したウホ。

 キャンパーとしての常識だウホ。

 こうして翌日には王都へとたどり着いたのだった。

 ……いや、意外と近くね?

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