閑話15 最終決戦

 もうダメだと思っていた。

 孤児院で修業して、仲間を集めて、武器防具を揃えて。

 3年かかって、ようやく僕は魔王のいる場所へとたどり着いた。


 しかしそれはたどり着いただけの話で、挑む力があることとイコールでは無かった。



 そう、圧倒的に力が足りていなかった。



 伝説の武器も、極大魔法も、帝国式体術さえも通じない。

 魔王の攻撃はじわりじわりと僕たちを追い詰めていた。


 ……あの声が聞こえるまでは。



「わりい、遅れちゃった。」



 なんか見覚えのある人がいきなり現れた。

 誰かが師匠と叫んでいたから、誰かの知り合いなんだろう。



 ……あれ?

 あれって一緒に召喚されたお兄ちゃん?



「勇者として戦うなら、魔王の強さをある程度調べておかないとダメじゃないか。

 勇者の紋章とか回収しきれてないし、裏ボスで邪神なんかも時々いるから、よく調べてからにしないと。」



 そう言いながら、お兄ちゃんは魔王にデコピンしていた。

 何度見ても、魔王の頭が無くなっているのが信じられなかった。



「……ちゃんと調べておかないと、こうなるからね。」


 無くなったはずの魔王の頭がブクブクと泡を立てながら再生していく。

 鼻の上くらいまで再生した段階で、魔王は語り出した。


「フハハハハ!頭を吹き飛ばされたくらいで――」


 ドッパンドッパンドッパンダダダダダダ


「頭がダメなら腹!腹がダメなら胸!それでもダメなら股間!それでもダメなら全身を連打だ!」


 絶対無理、真似とか無理。

 皇太子の全力の一撃がへこみもしなかったのに、腰の入っていない手打ちの連打で肉片が吹き飛んでいく。

 マヨネーズの最後のブパッってなるやつみたいに。


 お兄ちゃん凄いなぁ。



 僕は考えるのをやめた。



 どうやら魔王を倒したらしい。

 僕の足元に魔法陣が浮かび上がってきた。

 これで元の世界に戻るんだろうか。

 もう3年ぐらいたっちゃったけど、みんなはどうしてるのかな?

 僕は行方不明扱いになってたりするんだろうか。


「げ、この魔法陣時間管理できてないじゃないか。

 ちょちょいっとココをこう変えて……」


 足元の魔法陣をいじり出すお兄ちゃん。

 え、ちょっと待って、帰れなくならないの?

 仲間たちとの別れの時間もお兄ちゃんを止める時間も無く、僕とお兄ちゃんは魔法陣の中に閉じ込められた形になった。

 なんだか締まらないけど、これでみんなとお別れだ。

 僕は泣き笑いしながら一生懸命手を振った。



 気が付くと女神さまの目の前にいた。

 異世界に行くときに、力をもらった女神様が……なんだかおびえている気がする。


「おう、適当に呼んで適当に返すとかいい根性してるなお前。」



 お兄ちゃん女神様の胸ぐら掴んでるーーーーー!

 え?ちょ、まって!?


「す、すいません。私が未熟なばかりにそこまでは出来ないのです。」


 女神様が下手に出てるーーーー!?

 お兄ちゃん何者なの!?

 あ、女神様正座させてる。せっきょうがはじまった。

 おにいちゃんすごいなー、めがみさまを、せっきょうしちゃうんだ。


「いいか、この部分をこうして、こう書きかえれば戻る時間は調整できるだろ。

 後は若返りだけど……あの世界にいた時間分だけって出来るのか?

 何?出来ない?若返りの薬とか……は俺も作ってないしな。

 そこはこっちで何とかするから、次呼ぶ時は若返りを覚えてからにしろよ?

 戻った後の生活も大変なんだからな?」


「わかりました、絶対若返りの魔法か薬を用意してからにします。すいませんでした。」


 めがみさま、はんなき。

 おにいちゃんと、かえろう。

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