第93話 俺と勇者と太子

 俺と勇者と太子、旅するあなたのため。

 毎日鍛えていたいから。

 時々装備買ってさ、治めるあなたのため。

 ゴリラでいさせて。



 ……皇太子を鍛えました。

 基礎だけを繰り返させて、ひたすら続けさせた。

 俺が世界各地をグルメ旅行で回っていた時も、魔王を見つけて魔法でマーキングしていた時も、悪徳貴族をむしったりしていた時も。


 彼はひたすら基礎を繰り返してたくましくなった。


 たとえて言うなら。

 白かった彼が、細かった彼が、貧弱だった彼が、いわゆるもやしだった彼が。


 鉄のように硬く、竹のようにしなやかで、丸太のように太く、いわゆる戸○呂弟のようになっていた。


「師匠!いつになったら技を教えていただけるのですか!」


 超暑苦しい。

 グローブのような手で俺の両肩をつかんで前後に揺さぶる皇太子。

 ガックンガックンと揺さぶられる俺は、横から見たら分身して見えるんじゃなかろうか。

 と言うか、確実に俺じゃないなら死んでいるだろう。


「今まで教えてきた事は全てに通じる基本だ。

 相手を殴るとき、攻撃をかわすとき、走るとき、飛ぶとき。

 筋肉の言うことに耳を澄ませば、最適の動きが出来る。

 それが基礎にして最高の技だ。」


 とか言ってごまかす。

 既に帝国民の女性から敵視されている気がするけど。

 美少年をムッキムキにしちゃったからね。

 筋肉筋肉ぅ~


「し、師匠!そう言うことだったのですね!」


 何となく納得してくれたようなので、そろそろ逃げ出すことにする。

 もうほとんどの土地は行って来たし、そろそろグルメ旅行は終わりで良いかな?


 最後にまだ行ってない、世界の果てに行ってから元の世界に戻ろう。


「俺が教えられるのはここまでだ。

 後は自ら精進するといいだろう。」


 そう言い残してかっこよく立ち去る俺。

 ……無事ごまかして脱出成功。

 正直やり過ぎた、反省している。

 気を取り直して旅に出よう、俺の冒険はもうちょっとだけ続くんじゃ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ついにここまでやって来た。

 勇者として召喚されて、傭兵になって、修業して。

 ついに魔王の城へと到着したのだ。


「ついに、ついに終わるのね。」

「いよいよだな。」

「生きて、帰りましょう。」

「うむ。」


 魔法学園で虹の魔女と呼ばれていた彼女。

 無法都市で風の鍵矢と呼ばれていた彼。

 神国聖都で光の聖女と呼ばれていた彼女。

 帝国帝都で筋肉太子と呼ばれていた彼。

 強く、たくましく、けして折れない僕の仲間たち。


 そして召喚された勇者である僕。


 このメンバーなら、決して僕たちに負けはない――




「くそっ、何が足りないんだ!攻撃が通じない!」


「もう、魔力が……」


「私ももう……」


「もう腕が上がらん……」


「みんな、逃げ…て……」


「わりい、遅れちゃった。」



「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「師匠!」

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