第92話 もうゴリラはとまらない

 ああ肉になる、ああ骨になる。

 ゴリラになるか、あなた次第なの。

 ああ今夜だけ、ああゴリラまで。

 もう修行はとまらない。


「権力にあぐらをかくな!必要なのは知力体力時の運!

 少なくとも体力は一人前にしてやる!」


 というわけで皇太子の修行が始まった。

 下半身がマヒしていた期間が長いので、まずは歩くところからリハビリするのが必要だ。



 そんなぬるい修業はしないけどな!


「僕は何から始めればいいんでしょうか?」

「いいからドーピングだ!」


 ※良い子は真似しないで下さい。


 最近まで寝たきりだった皇太子。

 色白で腕も細ければ足はもっと細い。

 握るだけで折れそうな華奢な体に、顔は女の子と間違えられそうな美少年。

 儚げな姿に似合うような金髪は肩まで伸びていて、女の子と間違えられそうだ。

 これは確実に女の子と間違えられそうだ。

 そんな女の子と間違えられそうな皇太子が普通にトレーニングやったってどうにかなるわけが無い!


 というわけで再び登場、半永久的に体力&魔力を強化するポーション。


「な…なんですか!その5色のスライムをツボに入れて強引に木の枝でかき混ぜたような液体は!」


 クレア様、デジャヴュなリアクションありがとうございまーす。

 さあ飲んでもらおう!


「え、それを本当に飲むんですか?

 ちょ、ちょっとその前に毒見を──」


「うるせえ飲めこの野郎。」


 皇太子さまの口に瓶を突っ込むと、無理やり飲ませる。

 必死に拒否しようとしているが、魔法で口の横からこぼす事も許さない。


「ちなみにこの薬、持っていくところに持っていけば街が買えるくらいの値段はするから。」


 突然俺が言い出したこの薬高いですよ報告に、わずかに噴き出そうという力が入るが、観念して飲んでいく。

 味に気付いたのか、二口目からは抵抗なく飲んでいるようだ。


「そ、そんな高い薬お支払い出来るかしら……」


「大丈夫、美味しいごはんでいいよ。

 今夜の晩御飯期待してるからよろしく!」


 ぶれずにグルメ。これ大事。


「それくらいでいいのであれば……」


 クレア様がちらりとメイドに目を向けると、メイドはうなずいて部屋から出て行った。

 おそらくは料理長あたりにリクエストしに行ったのだろう。

 怪しい薬なのに承諾が早い気がするけど、呪い吹き飛ばした事で信頼してもらってるのかも。


 とにかく飲み終わった皇太子を連れて外へ。

 今から地獄の特訓の始まりである。

 ゴリラ式戦闘術の基礎をとことん叩き込んでやる!

 ……ゴリラ式戦闘術って今作ったけどね。

 まあその前に妙に色気のある薄手のパジャマを着替えてもらおう。


「その恰好で訓練は無理だろう。

 動きやすく汚れてもいい丈夫な服にでも着替えてくれ。

 俺は先に訓練所の方に行ってるから。」


 ……あれ?男の着替えだったっけ?

 何で俺、さも当たり前のように先に外に出てんだ?

 訓練場の行き方知らないけど……

 まあいいや、女の子と間違えられそうな皇太子が悪い。うん。

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