第89話 コイツバカです

 良く焼けた肉寄せて、次焼いた焼肉は

 2人だけの旅でも、ため息が出ちゃう


「信じられないほど快適な旅ですね。」


 あきれながら皮肉のように言うクレア様。

 あの後宿で1泊し、朝からナキクの街を出た俺たち。

 北上して帝国の国境を越え、帝国の港町から首都へと向かうルートがいいらしい。


 というわけでまずは陸路。

 魔法で作った土の座席にクッションを付け、風防をワイヤー入りのガラスで作成。

 その後に俺が立つ場所を設置して完成。

 デラックスベビーカー的な感じである。


 ……浮いて時速80キロで進むところ以外は。


 浮いているので振動はほとんど無く、風の抵抗も魔法で逸らしているので最低限だ。

 街を通過して馬車の3倍ほどのスピードで進んでいる。


 タイミング悪く街と街の間で日が沈んでしまったが、街道の横でちょっとしたコテージレベルの建物を魔法建築して寝場所は確保。

 異空間倉庫から出した布団をはじめとする様々な品物で、この世界では並の宿屋以上の快適さである。


 冷たいエール、焼肉、満天の星空。

 最高の贅沢である。


「快適なのは認めるけど、結構やってる人多いよ。

 土属性魔法使いの定番じゃないの?」


 具体的には言わないけど、よく見るよね。


「どこの世界の定番ですか。

 この建物なんて柱だけでも魔力切れますよ。」


 あれ?以外とこの世界の魔法レベル低い?

 異世界召喚とか俺と男の娘以外にもいたみたいだけど。

 ロストマジックとかいうやつだったのかな?


「まあそれは置いといて、結局何で第三皇女が狙われるような状況になってるの?」


「……話せば長くなるのですが。」


 そうしてクレア様はポツリポツリと語り出した。


 姉2人は年が離れており、兄が産まれたと同時期に慌てて嫁に行ったそうだ。

 兄の半年後に異母兄妹として産まれたクレア様は、年頃になったら嫁に出すつもりで育てられたらしい。


 ――兄が皇位を継ぐのが難しくなるまでは。


 ある日食事中に急に苦しみだした兄は、何とか一命はとりとめたものの、腰から下は動かなくなってしまった。

 毒なのか、呪いなのか、病なのか。

 それすらわからないまま回復魔法をかけられた事が原因なのかもしれない。


 ――下の世話まで必要な皇帝など認めない。


 そんな意見が出始めた頃、クレア様の価値がはね上がった。

 兄が皇帝になれないのなら、クレア様の夫が次の皇帝だと。


 このまま帝国にいては危険だと言われて旅に出たらしい。

 ……そこで連れ出した貴族に襲われるという笑えないオチだったが。

 狙ったのは懐柔か殺害か。

 後者でも、姉が皇族に戻る理由くらいにはなるのだろう。


「そんなわけで1度あの貴族のことを報告しに帰る必要がありますが、その後はまた旅に出るつもりです。」



「えっ?兄貴治せば良いじゃん。」


「えっ?」

「えっ?」

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