第83話 ロマンスとか無様

 ゴリラの俺が世界を救う。絶対いつか戻れるはずなの。


 異世界転移して魔王を倒すよりも、よっぽど怖いのがこの状況。

 持ち込んだ一角ホエールを解体してもらい、今目の前に様々な料理として並べられている。

 刺身風カルパッチョ、ステーキ、煮込み料理など、様々な料理として出されている一角ホエール。


 今は城の食堂と思われる場所にある広いテーブルで、一番下座の位置に座っているわけですが。

 周りに立っている兵士が居るのはなぜでしょう?

 キミ、槍でご飯食べるの?

 フォークの方がいいよ?


 30mくらい離れた対面、俗にいうお誕生日席にいるのはヅカさんのお父さん。

 つまり、このナキクの領主様である。

 隣にはドレスで着飾ったヅカさんと、ヅカさんに多少似てはいるけど優しい雰囲気の女性。

 おそらくはヅカさんのお母さん、領主婦人なのだろう。


 周りの兵士より、領主様がものすごい鬼のような目で見ている事の方が居心地悪いです。

 飯の味がわからない……ほどでもないんですけどね。

 娘を思う父親って言うのはやっぱり一番怖い気がする。

 マジで魔王とか殴れば済むし、こっちはどうしようもないから……


「お父様、彼はすさまじい力を持った方です。

 喧嘩などして大陸ごと滅ぼされたらどうするのですか!」


 いや、ヅカさん、俺そこまでしないよ?うん。

 山ぐらいなら吹き飛ばすかもしれないけど。って言うかやった事あるけど。


 ヅカさんが俺をかばう事で、より顔を真っ赤にする領主改めヅカパパ。

 ヅカママはあらあらうふふとのん気にほほえんでいる。


「とりあえずどうでもいい話は置いといて、ごちそうになります。」


 ヅカパパの視線は無視して一角ホエールを食べる事にする。

 カルパッチョは塩とオイルに何かの酢がドレッシングとしてかかっているようで、これはこれでありかもしれない。

 でもとりあえず醤油持ってるし、近くのメイドさんにカルパッチョ用に切ったものを追加で頼む。

 もちろん調味料は無しだ。


 頼んだ刺身が来るまで、他の物を食べよう。

 ステーキは塩コショウとニンニクっぽい物が使われていて、これはこれで美味しい。

 赤身の牛肉に近い感じだろうか、脂分がすくない分さっぱりとして量を食べられそうだ。


 煮込みはコンソメっぽいスープで煮込まれているようで、時間が短かっただろうに口の中でホロホロと崩れていく。

 短時間でどうやったのかと聞いてみると、フタの重い鍋を使うとの事。

 それ圧力鍋なんじゃね?

 圧力鍋に出来る加工精度とか、この世界じゃ金かかってそうだな……

 簡単に教えてくれたのも、圧力鍋的な物がそんなに簡単に手に入らないからじゃなかろうか。


 こっちでも簡単に手に入る圧力鍋を考えていると、刺身が届いた。

 いやあ、地球では食べたこと無いけど、クジラの刺身っておじさん達が喜んでたイメージなんだよね。

 異空間倉庫から醤油を取り出し、刺身と一緒にもらった小皿に出すと……



 ……衛兵から槍を突き付けられました。



 え?臭い?毒物じゃないのかって?

 そうか、買う時にも思ったけど、味噌醤油がダメな外国人もいるらしいしね。

 下手すれば生食にも慣れてない異世界人が、いきなり醤油で刺身食べてウマーとかなるわけないよね。うん。


 でもダメだよ?

 貴重な醤油を攻撃しようとするのは。

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