第81話 なのに雪

 馬車で行く君の横で僕は、話題を気にしてる。

 季節外れの海が鳴ってる。


(ボエエエエエエエエエエエ!)


 話題を変えるために呼び寄せた拉致した存在は、長く鋭いネジのような角をもった、まるでシロナガスクジラのように巨大な生物だった。


 ──ってこれが一角ホエールじゃね?


「な、なんでこんなところに一角ホエールが!」


「お、大きな魔物ですわ!総員戦闘配置ですわ!」


 あ、やっぱりこいつが一角ホエールなのか。

 陸に上がってくるのってちょっと不自然だったかな?

 とにかく話がそれたっぽいし、ここでさっとやっつけてしまえば!


「みんな下がって!ここは俺に任せろ!!」


 姫たちをかばうように前に飛び出すと、異空間倉庫からこっそり取り出した剣で切りつける。

 俺が一角ホエールを切りつけると、一角ホエールの首(?)が切り落とされた。

 急いで血抜きをしなければ!


 しっぽを宙に浮かし、切り落とされた首(?)からダラダラと流れ落ちる血液を、念のため魔法で作った土の器で受け止める。


「コイツの血って何かに使えるの?

 使えるならこのまま器を壺にして持っていくけど。」


「─────」


「……………」


 いえあ!無言!

 やっべ!またやらかしちゃった!

 これ絶対さっきの話が繰り返されるパターンじゃないか!

 脳筋になろうとは思ったけど、こんな所だけ脳筋発揮しなくていいのよ?


「キミ、やっぱり───」


「おっと、何を言いたいのかは知らないけど、俺は目立たずグルメ旅をしたいだけなんだ。

 あまり騒がれると面倒になって暴れちゃうかもね!」



 最 終 手 段  脅 迫 !



 もうめんどくさいからね。最後は結局力が物を言う……

 今回は物を言わせない?どっちでもいいや。


「わ、わかった。もう何も見なかった事にするよ。」


「もとより命の恩人様ですもの。そんなご希望に反するような事はしませんわ。」


 よし!脅迫(?)成功!

 とにかくこの一角ホエールを街まで持っていこう。


「次の街でも一角ホエール料理ってやってもらえるのかな?」


「あ、いや、あれはナキクの街だけの……」


 え、マジっすか。

 しょうがないから、ナキクに着くまで異空間倉庫にしまっておこう。

 雪も降ってきたし、急いで次の街まで行きたいからね。



 体長10mはあろうかという一角ホエールが、まるで瞬時に消えたように見えた2人の姫とその護衛。

 しかし、その口を開くことは無く、どこに行ったのかなどといった質問をすることは無かった。

 護衛だけではなく2人の姫さえも、うかつにこの人物を詮索すると殺されるんじゃないかと思っていた。


 そして雪だと思っていた白い粒が、元海水の塩である事に気づいた時。

 果たしてこの一角ホエールは、本当に自分の意志で飛び出したのだろうかという疑問を持つのであった。

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