第76話 北を向いて歩こう

 街をようやく出発する事になった。

 これ残りの街も同じように待ってたら、かなりの時間がかかるんじゃなかろうか。


「次の街も何日か滞在すんの?」


 馬車の御者をしながら、中にいるヅカさんに話しかける。

 流石にまた横で寝られるのは困るから、中に入って貰った。

 護衛が妬みすぎなんだよコンチクショウ。


「次の街はさっきの街の領主の領内だし、その次の街はうちの領地だから。

 うちの領地の方は代官に挨拶くらいした方がいいけど、領主の娘を待たせるような事はしないよ。」


 なるほど、衛星都市のような街は代官に任せてるのか。

 と言うことは、次の次の街はヅカさんに案内して貰えるんだろうか。


「いや、次の街もその次の街も1泊で先に進むよ。」


 ぐ、グルメ……

 まあ仕方ない。

 とりあえずは次の街で良い宿を探せば名物が食えるかもね。


 そんな事を思っていると、前方から何やら悲鳴が聞こえる。


「前方から悲鳴と剣の音。

 トラブルっぽいけど、どうする?」


「どうするも何も無いよ!

 こんな時に助けないで何が貴族だ!」


 いいねえ、こんな時に駆けつけるようでないと守りがいが無いってもんだ。

 しかし、世の中はそう考えてはいないのかも。


「いけませんお嬢様!

 そんな事をして万が一が――」


 護衛のひとりがそう言いかけた瞬間、俺から3本の光と炎の球が大小合わせて13個ほど飛んでいく。

 遠くで聞こえる悲鳴。

 そのまま馬車を進める俺。

 あっけにとられた護衛が慌てて馬車を囲むような位置に戻ると、そのまま前へと進み続けた。


 見えてきたのは豪華な馬車と、あっけにとられる騎士っぽい人たち。

 騎士たちは一瞬だけこちらを警戒すると、御者台へと顔を出したヅカさんを見て即座に敬礼した。


 これはヅカさんが貴族って知ってるパターンか、面倒にならなければいいけど。

 でもあの馬車どっかで見た事がある気がするんだけど……

 あれ?前高速移動中に助けた馬車と似てる気が……


「ありがとうございました。ナキクの姫様でいらっしゃいますよね?」


「これはフゼットの姫様では無いですか!

 ご無事で何よりです!」


 豪華な馬車から出てきた女性がヅカさんに挨拶すると、慌てた様子でヅカさんが馬車から降りて挨拶を返す。

 18人を超える盗賊が倒れる中で、普通に挨拶する貴族の2人。

 いや、さすがにそれは神経疑うんですが。


「そしてそちらにいらっしゃるのは、半月ほど前に助けていただいた閃光の騎士様ではありませんか?」


 なんだよその二つ名。

 確かに助けてそのまま風のように走り去ったけどさ。

 って言うかやっぱりあの時の襲われてた馬車かよ!護衛増やせよ!!!


 せっかく回避したはずの面倒ごとに、不安を覚える俺であった。

 って言うかこの姫様(?)どのルート通ってきたんだ?

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