第75話 1番デカい

 関西と思ったら博多だった事件から2日。

 俺はヅカさんと一緒に領主の館にいた。


 ……なんで護衛が俺なのか。

 いや、他にも元々の護衛がいたじゃん!

 貴族同士のやり取りとか巻き込まれたくないし面倒ですしウホるし。


「いや、1度簡易的でも挨拶しといて、そのまま街を出るわけにはいかないでしょ。」


 はい、ごもっとも。

 そんな訳で、サイズ感のおかしい通路を進んでるわけですが。

 やっぱりあのデカい領主、体の大きさは血筋なのか屋敷の天井も高い。

 俺、本当は狭いところが好きなのに……


 天井が高い家は部屋の隅っこを押入みたいに2段に区切って、書斎と倉庫にしたくなる。

 奥さんも狭いの好きだって知ってるなら、それくらい許してくれれば良いのにね。

 なんて意味不明な方向に思考がそれだした頃、ついに謁見の間に到着した。


「ここからはせめて黙っててね。」


 ヅカさんがそう言うが、案内役の執事さんは既にあきれ顔です。

 手遅れだね!


「良く来たな。」


 さすがに馬には乗っていないが、十分デカい椅子に座っている領主は見上げないと目が合わない。


 それよりもちょっと気になるんだけどさ。



 そのはどちら様でしょうか?



 え、えぇ……?

 マジで?本当に人間?


「ほう、余の妻を見ても顔色一つ変えないとは大した護衛ではないか。」


 奥さんデカいよ!十分驚いているよ!!

 正直以前の世界でポーカーフェイスを身に着けていなければ、ツッコミを入れていたに違いない。

 いや、あのラ〇ウよりデカい奥さんって何よ。

 むしろあの領主婿養子だったのか疑惑だよ。


 混乱しながらも、黙ったまま目礼する事でその場を乗り越えた。

 後は黙ってヅカさんと領主の会話が終わるのを待つだけだ。

 最低限自分に関係のありそうな単語だけ拾いつつも、大半を右から左に聞き流して時が過ぎるのを待った。


 話の流れ的にもうそろそろ謁見を切り上げて帰ろうと言う話になった時。

 地面が小刻みに揺れている事に気づいた。

 慌てて気配察知を行うと、この謁見の間に近づいてくる巨大な存在が!

 この揺れは歩く振動だというのかっ!?

 そしてその存在はついに目の前にあらわれた。



 ……領主夫婦の後ろ側のドアから。



「こら、はしたない。この子はもう……」


「うぬらにも紹介しよう。この子は我が愛するである。」



 おう、2mぐらいありそうな領主が一番小さいマトリョーシカに見えるぜ。


「ほう、我が娘を見ても顔色一つ変えぬとは。なかなか肝の太い男であるな。」


「あらあら、これはお婿さん候補かしら?」


「もうやめてよパパ、私自分より背の低い男は嫌よ?」



 やめて下さい。死んでしまいます。

 表情筋がもう持ちません。



 この後普通に宿に戻ったらしいが、俺の記憶には残っていなかった。

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