第70話 say good 軽率

 知ってるかい?

 辛さってのは味覚じゃなくて痛みなんだ。

 そして痛みというのは回復魔法で癒せるものであり、慣れるものでもある。

 つまり何が言いたいかと言うと……


「キミ、良くそんなの食べられるね……」


 俺の手元には顔を近づけるだけで涙を流しせき込む、もはや赤を通り越して黒に近いスープ。

 立ち上る湯気にすら色がついているように見える。

 ヅカさんは少し離れたところで鼻をつまみながら、涙目で避難中である。

 ミノタシチュー、トメロゥMAX早食い勝負にチャレンジ中なのであった。


 最初の一杯を回復魔法で口内を癒しながら食べていた俺は、徐々にその辛さと言うか痛みに耐性を得ることが出来た。

 後半になればなるほど平気になってくる俺に、屋台の店主が勧めてきたのがトメロゥMAXチャレンジだ。

 度重なる訓練の結果、耐性を得るのも早くなった俺。

 既に辛さと言う名の痛みでさえも耐性を手に入れたのだった!


「え、余裕余裕美味い美味い!こんなの辛いのは最初だけだって。

 ほら、環境適応能力は高いから、これもすぐに慣れたよ。」


「いや、環境適応能力とか慣れたで済む問題なのかい?」


「作ってる俺でもこんなの食えねえぞ?」


 慣れたものはしょうがないよね。

 それと店主のオヤジ、てめえ自分で食えないもの人に出すんじゃねえよ。


 トメロゥMAXチャレンジは時間制限があり、小さな穴をあけたボウルに水を入れ、その水が全部無くなったら時間切れだ。

 今はボウルの半分ほど水が残っているが、シチューはもうすぐ食べ終わりそうだ。


「これでっ! 完っ! 食っ!」


 最後の一口を掻き込みむと、食べ終えた皿を突き出して完食を宣言。

 これでチャレンジ達成、銀貨を手に入れた!

 ……これ達成して銀貨一枚とか、ちょっとハードル高すぎだろ。


「そんなに気に入ってもらえたのなら俺としても嬉しいな。

 もう銀貨は無いが、お代わりはいるかい?」


「おう!せっかくだからもらおうかな!」


 こうしてヅカさんの化け物を見るような視線を浴びながら、お代わりを食べ始めるのだった。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 グルル……


 グルルルル……


 ゴギュルルルルル……


 闇の淵から聞こえる獣のようなうなり声──


「うがああああああっ──ググッ……

 グウギギギギギ──グヒッ……」



 知ってるかい?

 辛さってのは味覚じゃなくて痛みなんだ。


 口内の痛みには慣れても、胃腸や肛門まで慣れるわけではないって事、覚えておくと良い。


 今の俺のようにトイレから動けないようにならないためにも。

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