第69話 シチューはDEATH物だったり

 気を取り直してヅカさんと街を歩く。


「考えはわかるけど、さっきの言い方は酷すぎない?」


「早くて見えて無かったんだけど、君先に手出してなかった?

 先に襲ってきたのは向こうだとか言ってたけど、あのヒャッハー毛が無くなってたんだけど……」



 ………あれ?先に俺がむしってない?



「お!ほら、あそこ!シチュー……?」


 とっさに話をそらそうと指さした所にあったのは、禍々しいオーラをまとったシチュー(?)の屋台だった。

 見た目はごく普通の屋台なのだが、売っているシチューが少しおかしい。

 クリームシチューではなく、ビーフシチューのような茶色っぽいシチューなのだが、何かがおかしい。

 看板には【ミノタ肉のトメロゥシチュー】と書いてある。

 ミノタ肉ってミノタウロスの事なんだろうか。


 ……いや、まさかね?ミノタウロスの事じゃないよね?

 いくら勇者がいて、たまたま似たような魔物にミノタウロスってつけたとしても、アレほぼ人じゃん !

 アレ牛なのって頭だけじゃないか!食べちゃだめだよね!?


 肉の正体を確認するためにも、話を逸らすためにも、ヅカさんを引っ張って屋台に近づく俺。


「おっちゃん、これ何が入ってんの?」


「看板読めねえのか、ミノタ肉とトメロゥのシチューだよ」


 それはわかってる、こっちはミノタ肉ってのが何なのか知りたいんだよ!


「そう言えば君は旅人だったっけ、ミノタ肉かトメロゥのどっちかを知らないのかい?」


 さすがヅカさん!選択肢を間違えた出会いシーンでも仲良くなれただけはある!

 でも、ほどほどにしておかないとグルメ旅行の設定に矛盾が出てきちゃうからね。

 出来るだけ自力で見て回ろう。


「恥ずかしながらどちらも知らないんです。見たことのない食べ物は一通り食べてるつもりなんですけどね。」


 聞くは一時の恥ってね。

 後から名前が違ってただけでしたとか言えば、グルメ旅行の設定に補強できるかな?


「ミノタ肉はあれだ、兄ちゃんミノタウロスって魔物知ってっか?」


 うわぁ、もう既に超やばい気しかしないんですけど。

 ……やっぱりあれ食べるの?


「ミノタ肉はミノタウロスと同じ頭をした四つ足の家畜だよ。」


 セーフ!!!

 ミノタウロスって名前は勇者がつけたのかもしれないけど、まさかそこから牛の名前がミノタってなるとは思ってなかった……


「んでトメロゥってのは赤くて中に小さな種の入った野菜だよ。

 種ごと食べるのが普通だが、種が嫌いってやつもいるな。」


 これはトマトっぽい物で確定だろう。

 という事は牛肉のトマト煮込み風シチューって事か。


「コレ食べてみたいんだけど、一緒に食べる?」


 念のためヅカさんに確認すると、ヅカさんはトメロゥがダメだとの事。

 トマト嫌いとか子供っぽい所もあるのね。カワイイカワイイ。


「トメロゥを食べられないのは子供だって言っても、食べられないものは食べられないんだからしょうがないじゃないか。」


 頬を膨らませてむくれるヅカさんを見ながら、お金を払ってシチューを受け取り、さっそくスプーンですくって食べ始める俺。



「だってトメロゥ食べると、舌もクチビルも、口の中全部痛いんだもん。」




 ……トマトじゃなくてハバネロだったああああああああああああああああああああ


 <トメロゥ>は<トマト>じゃなくて<止めろぅ>でしたとさ。

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