第63話 男もつらいよ
さっき倒した魔物は結構強かったのかも知れない。
他の魔物の気配が全然無いからだ。
前の街をゴブリンが沢山襲っていたのを除けば、この街道沿いにある森にはあまり生き物の気配が無い。
それがかえって不気味なのだが、さっきのクマがこの辺を縄張りにしていたのであれば無理も無い話である。
「さっきのクマってマーダーベアーだよな。」
「もっと森の奥にいなかったっけ?」
「最近この森生き物がいないから、奥の方から出てきたのかも。」
「いや、でもマーダーベアーがあんな簡単に死ぬか?
本物ならあの兄ちゃん何者だよ。」
いや、今は確かに橋のそばで休憩中だけどさ。
海に流れ込む川にたどり着き、せっかくだからと馬に水を与えているが、馬車に繋がれている都合上、俺が水をやっている馬は他の護衛の馬とちょっと離れている。
護衛達は固まって話しながらで、ちょっとだけ疎外感。
「さっき寝てた間に何かやったのかい?
護衛達が君を変な目で見ている気がするよ?」
先ほどまでは確実にヅカさんのせいで、嫉妬の目を向けられていたのですが。
俺は無言で肩を指さすと、そこについたよだれの跡に顔を赤くして背けるヅカさん。
クマを殺した事は置いといて、これ以上肩で寝るのはやめて欲しい所である。
護衛の盗賊っぽい人が遅れていたのか、今になって合流した。
どうやらさっきのクマから素材を剥ぎ取っていたらしい。
いや、別にいいんだけどね。少しぐらい分け前が欲しいなんて思ってないんだけどね。
「こ、この素材本当にもらっていいのか?」
「だってさっき『好きにしろ』って言ってたじゃないか。」
「それにしてもこれは……」
いや、確かにヅカさんを起こしたくなかったからスルーしようとしたけどさ。
それで剥ぎ取りしてきていいかって言われて許可も出したけどさ。
そんな高額になるなら自分で剥ぎ取っておけばよかったかなあ……
いやいや、そんなみみっちい事言ったら情けないよね。
この世界は男尊女卑も残ってるみたいだし、男ってだけでそんなケチ臭い事言うと冷たい目で見られるんだろうな。
そういう意味での男女平等も推進したい今日この頃。
後ろ髪を引かれながらも休憩を切り上げ、次の街へと向かう。
ふと疑問に思ったのだが、最初にこの世界に来た街から香辛料を求めて南下したわけだけど……
向こうは別にそんな北国って感じじゃなかった気がしたんだけど、それから結構な距離を飛んで駐屯地に到着したわけで。
ここから先で北上しても、寒くなるには相当な距離を行かなければならないんじゃないだろうか。
飛んだことをぼかしながらヅカさんに聞いてみると、ナキクは別にずっと北にあるから寒いわけじゃないらしい。
年中雪が降り続ける山から冷たい風が吹き続けているため、年中寒い気候になっているそうだ。
確かに北に行けば寒いってのは地球の北半球だけの話だよね。
地球でも南半球なら北に行くと暑くなるのに、異世界で何も考えずに南に向かった俺はアホだった。って事ですね。わかります。
とりあえずはそんなに長期間馬車移動する必要は無いみたいで安心だ。
……この馬車ケツも痛けりゃ玉も痛いから、あまり乗り続けたくないってのが本音なのは秘密です。
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