第64話 釣れるバカ日記

 無事街につきました。

 この街の次の次の次の街がナキクのはず。


 あの川を越えた後は右手側だけではなく、進行方向にも海が見えてきた。

 その大陸の角になる場所にあった港町が、今到着した街である。


 …海岸線を行くためか、途中の街は全部港町らしいんだけどね。

 固有名詞が無いと見分けつかないだろうけど、もう二度と来ないから問題ないだろう。



 え?なぜ二度と来ないかって?

 暴漢バカが大量に沸いているからです。



 街の門をくぐるのは楽だった。

 森が遠くないからか、木製の外壁が囲む港町。

 ずらりと門の前に並ぶ人の列の横を通り抜け、貴族用と思われる門へ。

 護衛の人達も知られているのか、ヅカさん共々顔を出すことなく街の中に入ってしまった。

 ……俺までチェックスルーでよかったのだろうか?

 それともヅカさんの権力で通してもらった形なのだろうか。

 おそらくは後者なんだろうな。


 いつもの事なのか、ヅカさんは街の中へ入るとすぐに馬車から降りた。

 俺の腕をつかんだと思うと、商店街らしき大通りへと向かい走り出す。

 護衛の人達はこのまま宿の確保チームと、この街の領主へアポを取るチームに分かれるようだ。


「街を訪れる度に、わざわざ領主への挨拶で数日待たされるんだ。

 だから数日はこの街に滞在することになるから。」


 若干申し訳ない顔をするヅカさん。

 しかし、気にしているのはそこではない。

 目的を果たしたとはいえ、まだ男装したままのヅカさん。

 護衛の人達は普通に女性だと知っていたから嫉妬していたわけで……

 こちらを見る目は嫉妬の目ではなく、好奇の目である。


 どう見てもイケメンとフツメンのカップルです。本当にありがとうございました。


「見ろよあいつらw男同士で腕組んでやがるwww」


 おいやめろ、『w』とか発音できない言葉使うな。

 それと人を指さすのは失礼だって……いうのは日本の常識だったな。


「うっせえハゲ。」


 頭の悪そうなモヒカンだったのだが、むしったのでハゲになった。

 間違いは言ってない。

 ちなみに今回はちょっとムカついたので、魔法じゃなく物理だ。


「ってえなあああああ!てめぇぶっ殺す!」


 簡単にむしられた時点で力の差に気づかないのだろうか。

 ちょうどいい、せっかくだから試してみたいことがあったんだ。

 俺はおもむろに両手を上げ、バンザイの体制をとる。

 ついでにヅカさんの手を腕から外し、これから動く妨げにならないようにするのも忘れない。

 そして右手は握りこぶしをまっすぐ前に出し、左手はボクシングの構えのように顔のそばへ。

 そして前に向かって軽く跳ねるっ!


「ばーん〇っこー!」


 右手が元モヒカンの頬に突き刺さった瞬間、魔法の力で慣性を全カット。

 そのまま前まわり宙返りのように回転し、その勢いでかかと落としを決める。


「くらっ〇しゅー!」


 そのままだと反動で尻もちついて終わりの所を、またもや魔法の力で無事着地。

 直後に膝蹴りをこっそり入れて相手を浮かせつつ、そのままジャンプして体をひねる。

 ひねった体を戻すように、上半身だけの正拳突きを斜め下に向かって叩きつける。


「ぱわー〇んく!」



 ピクリとも動かなくなった元モヒカン。

 一応生きているはず……どうしてもこの3連コンボをやりたかったんだ!



「なんか掛け声は気が抜けてたけど、ずいぶんスゴイ動きだったね。

 カッコ良かったけど、ちょっと目立っちゃったかな?」


 ヅカさんよりお褒めの言葉?を頂きました。

 しかし元モヒカンの叫び声か、打撃の衝撃音か技名か。

 音に釣られ、うじゃうじゃと沸いて出てきたのは全部モヒカンだった。

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