閑話11 美姫讃歌

 とある街の薄暗い酒場で、1人の若い吟遊詩人が弦楽器をかき鳴らし語り出した。


「平民に恋してしまった領主の息子、苦しい生活の孤児院の院長。

 そしてその2人を祝福しようと身を引いたナキクのお姫様。

 これは、そんな心優しい姫の歌です。」


 最初は聞いてなかった酔っ払いも、吟遊詩人の語りに興味を引かれだした。

 酒場がある程度静まった頃、その歌は始まった。



 とある領地の領主の娘

 てんしのような美しき娘

 もんくも言わず決まる結婚に

 きたのは南の港町

 れんあいよりも貴族として

 いいなずけに会いに来た

 でもそこには別の物語


 やたらとドジな領主の息子

 さいしょは仲良く過ごしてた

 しかし彼は恋に落ちる

 くるしむ孤児院を支えてる

 てんしのような美しき娘に


 みるからに男はそっちを向いて

 まるで自分がお邪魔虫

 もう彼を解放しよう

 りゆうは何とでもなる

 まよう事なんて何にも無かった

 すべては彼の幸せのため


 なみだをこらえて幸せ祈る

 きっと素敵な未来になる

 くるしむ孤児院は助かって

 のぞみはみんなの笑顔だけ

 ひとりじゃないから笑顔になれる

 めざすはナキクへ帰る道



「こうしてナキクのお姫様は、港町の領主の息子との結婚を取りやめ、応援をする事にしました。

 ……まあ結局領主の息子は振られるんですけどね。」


 騒いでいた客達はしんみりと杯を傾け、余韻に浸っていた。

 さっきまで暴れていた男も、泣いていた男も、喧嘩を始める所だった2人も。

 大人しく飲み出したのに喜んだ酒場の店主は吟遊詩人を懇意にし、この歌は広まっていった。



 そしてしばらくたった頃。

 とある酒場で、この曲に顔を赤くしている女性がいたとかいないとか。



 ちなみにゴリラはいっさい出て来なかった。

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