第55話 水の流れのように

 翌朝、まだ暗いうちから孤児院の庭に出た。

 ある設備を作る為だ。


 土魔法で長さも傾きもバラバラの杭を作り、枝のような障害物も配置する。

 地面にはマットを敷き、障害物や杭の側面も柔らかく加工する。

 耐久性が微妙なので状態保存の魔法も追加でかけておく。


 作り終わった設備を試していると、院長が様子を見に出て来た。


「あ、起こしちゃいました?すいません。」


「あ、いえ。それは良いのですが……。

 これ一晩で作ったんですか?」


 驚くのも無理はない。

 杭だけで80本以上立っているからだ。

 とりあえず魔法ですぐ作ったんだと説明をすると、早速院長に施設を試して貰う。


 杭の高さも角度もバラバラな上に、頭上や横にせり出した棒が邪魔する中を飛んで渡るアスレチックだ。

 力の無い院長にはとことん体幹とバランス感覚、状況判断を鍛えて貰うのだ。

 押し負けるならすり抜ければ良い。

 昨日の特訓もそのための体捌きの練習だったのである。


 しばらくすると子供達が起きてきたので、朝ごはんを用意して食べさせる。

 院長が休憩している間に子供達までチャレンジしているのはごあいきょう。

 むしろ子供の方が身軽な分、院長より先まで進んでいる気がする。

 ついでにお昼ごはんも準備しておこう。


 魔法で掃除しながら昼ごはんを作っていると、庭の方から叫び声が聞こえてきた。

 ……もうちょっとで終わりだから、仕上げてしまおう。


 だってさっきの叫び声、あの身なりのいい兄ちゃんだったし。



 庭に出ると、身なりのいい兄ちゃんが半裸で棒に引っかかっていた。

 チャレンジして大失敗したらしい。


 ……どう失敗すればあんな風になるんだ?

 エロハプニングでポロリ体質の兄ちゃんとか誰得だよ。

 院長は手で顔を覆い、子供達は棒で突っついて遊んでいる。

 流石にかわいそうなので助けてあげよう。


 身なりのいい兄ちゃん……既に服がボロボロなのでエロハプとでも呼ぼう。

 うっわ、我ながら酷いネーミングセンスである。

 とりあえず子供の教育に悪くない格好になるように、異空間倉庫から出した服を着せてやろう。


「…今このおっちゃんどこから服出したんだ?」

「ごはんの材料もどこかから出してたよ?」

「このおっちゃん魔法使いじゃないの?」


 あ、気にせず異空間倉庫使っちゃった。

 ……まあいいか。うん。ウホウホ。


 とにかくこのエロハプがこれ以上見苦しい物を見せないよう、耐久値高めの服を用意しました。

 いくらゴリラでもそっちのバナナは遠慮します。

 キャー!下ネター!


 エロハプが服を着終わった頃、院長さんが「もういいですか?もういいですか?」って言ってた。

 何この可愛い生き物。

 ロリじゃないのにこんなセリフがあざとくないだなんて!恐ろしい子!!

 って言うかなんでこんなピュアなのこの子。可愛いじゃないか!」


 どうやら後半が声に出ていたらしく、真っ赤になる院長。

 ニヤニヤしてるけど、食料庫としか見ていなさそうな子供たち。

 そして、急にキツい目でにらんでくるエロハプ。


 ああ、そういう事か。めんどくさい。

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