第54話 わんぱく宣言

「貴方を弟子にする前に、言っておきたい事がある。

 かなり厳しい修行もするが、俺の話を聞いておけ。」


「は、はぁ…」


 何やらいきなり変なことを言い出した俺に、戸惑う孤児院の院長。

 俺を連れてきた身なりのいい兄ちゃんは、失敗したかもと顔を手で覆っていた。


 院長は実年齢と比例してるかわからないが、見た目は20代前半の女性である。

 さっき聞いていた通りの細い体、この華奢な院長さんにあの戦場は無理だろう。


「はじめに言うと、あなたには俺と同じ事は無理です。「えっ!?」「はっ!?」」


 俺の発言にいきなり驚きの声を上げる院長と恐い顔になりつつある兄ちゃん。

 だが当たり前のことを言っただけの話だ。

 2人に、協力して俺を動かしてみて下さいと指示を出した。

 身なりのいい兄ちゃんは院長を気に入ってるのか、良いところを見せようと気合いが入る。

 共同作業ってのもポイントが高いらしい。

 この兄ちゃんわかりやすいな。


 とにかく俺を少しでも動かそうと、顔を真っ赤にして押し続ける2人。

 それに対して俺の方は、顔色ひとつ変えずに微動だにしない。

 今は単純に【重量増加】を使って動かなくしている。


「ね?こんなの無理でしょ?」


 疲れて諦めた2人にそう言うと、兄ちゃんの方が抗議の声を上げる。


「それじゃあ院長さんは魚市場行けないままじゃねえか!

 ちゃんと金払うんだから教えろよ!」


 あ、金払うんだから発言で院長が申し訳なさそうな顔をしている。

 この辺の気遣いが出来なければ、スマートに口説くなんて事は無理だな。


「まあまあ、この方法は出来ないと言うだけで、他にも方法はありますよ。」


 そう言いつつ、兄ちゃんにもう一度俺を動かそうとしてみるように指示する。


 今度はまるで川の流れが岩を避けるように、兄ちゃんは後の方へ逸らされて転びそうになる。

 顔が赤いのは恥ずかしいからか、良いところを見せようと必死だからか……

 少しムキになった兄ちゃんは何度も繰り返すが、一向に俺が動くことは無く、最後には転んで立ち上がらなくなった。


 ちなみに遠くで見ていた孤児院の子供達も、途中から楽しそうに参加している。

 ちゃんとマットも忘れないで敷いてあげたし、院長も一緒にやっている。

 気付けばすり抜けるように場所が入れ替わっているのが楽しいのだろう。

 子供達は飽きることなく俺に向かって突撃し続けた。



 その後孤児院のみんなに料理を作り、魔法でみんなを綺麗にして、みんなで雑魚寝した。

 途中で迎えが来て帰る事になったときの兄ちゃんの目は忘れない。

 心配するのはわからなく無いけど、妬みすぎだろアレ。


 こうして院長は特に成果を実感しないまま、初日が終了するのだった。

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