第52話 寿司食いてえ

 幼女趣味団を壊滅させた俺は、港町なのに海産物を食べていない事に気が付いた。

 今後内陸に向かうかも知れないし、魚介類は買い溜めしておかなければ!

 出来れば水槽ごと買い取るくらいの勢いで。

 ……異空間倉庫には絞めてからしか入れられないけど。


 と言うわけで港の方に行ってみると、広い敷地に屋根だけがついた、いかにも市場のような場所があった。

 ここで取れたての魚介が手に入るのだろう。


 ……多分もっと早い時間なら。


 領主の館を朝には出たものの、朝食替わりの買い食いをして、幼女趣味団を潰していればもうお昼なのも当然である。

 そう言えばあれは朝飯前じゃなかったな!とかオヤジギャグで現実逃避をしていると、1人のおばちゃんが声をかけてきた。


「あら、あんたもう市場に来たのかい。

 市場はまだだよ。昼飯ならそこに見えるお店がオススメだから。」


 何やら地球の基準で朝から市場があると思っていたが、この街では朝から出発して昼まで漁をし、昼過ぎに船が帰ってきた頃に市場が開くらしい。

 照明の無い、もしくは高い世界だと確かに合理的ではある。


 朝は肉、昼には一夜干し、夜に新鮮な魚がこの街のお約束らしい。

 オススメされたお店で一夜干し定食を頼むと、さっきのおばちゃんが定食を作りながら教えてくれた。

 ……商売上手だなこのおばちゃん、自分の店オススメしてたのか。


 そして定食を食べようと……何これ?

 魚の一夜干しはまだいい。

 ちょっと奇抜な見た目してるけど、ハゼあたりと大差ない。

 麦飯も米がない中ではベストチョイスだ。


 ……トマトリゾット風になっていなければ。

 定食って言っても、申し訳程度に添えられたトマトとキュウリのようなサラダが付いているだけで、ほぼ1品料理じゃないか!

 しかもトマト被ってるし!


「あら、タモトは嫌いかい?それともルーキかい?」


「あ、いや、大丈夫です。いただきます。」


 どの事言ってんのかわかんないし。

 異世界転移する度に思うけど、似た植物じゃ翻訳してくれないのかな。


「その『いただきます』ってのがあんたんとこのお祈りか何かかい?」


「そうですね。食材や作ってくれた人への感謝みたいなものです。」


 魚の身をほぐしながらスプーンですくうと、ホカホカの湯気。

 1度焼いたのか香ばしさとトマトっぽい物の酸味のある香りが食欲をそそる。


「作ってくれた人はともかく、食べ物に感謝するって変な話だねえ。

 あたしゃ魔物に食われる前にありがとうとか言われても嬉しくないよ!」


 笑いながらそんな事を言うおばちゃん。

 まあ確かにそうなんだけどね。

 日本の文化だからスルーして下さい。

 個人的に好きな考え方なのは変わらないし。

 いろんな人がいるもんだからね。



 一口スプーンをくわえた途端口の中に広がる魚の生臭さと甘いトマトのコラボレーションに、思わず動きの止まった俺はこの定食どうしようと悩むのであった。

 これがうまいと思う人もいるなんてほんっと、いろんな人がいるんだなあ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る