第49話 いやいやいやいや
兵士に案内されたのは領主の館だった。
領主様直々にお礼を言いたいとの事。
……なんだか嫌な予感がするんだけど。
こう考えてしまうのも多分フラグなんじゃなかろうか。
屋敷にしては随分大きな門をくぐると、地球でいうゴシック調の建物が見えてきた。
キンキラキンの派手な豪華さとは違い、細かな彫刻や模様などだけで厳かに高級感を出しているのは好感が持てる。
両開きの重厚なドアが開かれ、中に入ると吹き抜けのホールだった。
天井画もあり、まさに地球の教会のような作りになっている。
そのまま中へ入っていくと、そこそこの広さの応接室的な所に案内された。
素材自体はおそらくそう高くはないものだけど、ただひたすら技術の高さがうかがえる家具ばかりだ。
例えばテーブルの側面や脚に彫り込まれた彫刻は、それだけ切り取っても立派な芸術品と呼べるような代物である。
様々な職人技を見ながら楽しんでいると、ドアが開き男が入ってきた。
「今回の助力、大変感謝する。」
入室早々そう言って頭を下げる領主らしき男。
あれ?貴族ってそう簡単に頭下げないんじゃなかったっけ?
この国じゃ別にそうでもないのかな?
……ギルド職員は横柄な態度だったけど。
「そう言うわけで、褒賞として我が娘を嫁にやろう。
騎士爵位も与えるので、ここで騎士団としてその腕を――「ちょ、待てよ!」」
思わずキ○タク出ちゃったじゃないか!
「私、生まれも育ちもへんぴな国の名も無き村でございます。
人呼んで風天のゴリラと発します。
魔物暴れる魔の森そばに仮の住居罷りあります。
不思議な縁もちまして世の中の困った人のために粉骨砕身、旅に励もうと思います。
西へ行きましても、東へ行きましても、とかく土地土地のお兄さんお姉さんに御厄介かけがちなる若造でござんす。
以後、見苦しき面体お見知りおかれまして今日後流れゆく自由を宜しく御頼ん申します。」
あっちゃんカッコイイー!
いやいやいやいや、違う違う。
前にも貴族から婿にとかそんな話はあったけど、この領主即断即決が半端ないって!
「ふむ、つまり旅人をやめるつもりは無い、と言うことか。」
さっきので通じた!すげえ!
「そうです。
流れ者の身としては、幾ばくかの金銭を頂ければ十分かと。」
「ふむ……それならば仕方ない。
では、かさばらぬ程度の金銭と、我が娘をやろうではないか。」
おい、なんで余計なのがくっついてくるんだよ。
これ絶対不良債権化してる娘が出て来るパターンだろう。
「私は旅の身の上、背負って行くにも辛い道のりでは、お嬢様が耐えられぬかと。」
噓は言っていない。
背負った状態で、風や気温から身を守る魔法をかけることは出来る。
しかし文字通り音速で走る人の背中なんて、一般人にとっては内臓をかき混ぜるシェイカーに早変わりだ。
「では馬車をつけるから娘を――「いりません」」
このやり取りは2時間ほど続き、結局泊まっていくことになったのだった。
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