第42話 おばさまはマジだった

 目の前で慌てふためくおばちゃんに逆に冷静になる俺。

 うん、やってしまった物は仕方が無い。

 まず一族に伝わる秘術とか言って、術の価値を高く誤魔化す。

 次に仕事の依頼を見せて貰って、需要の確認をする…フリをして、技術レベルを測る。

 よし、完璧な作戦だ!



「炎のエンチャントは一族の秘伝で、家族以外に教える気は無いか―「結婚して!」



 家族以外に教える気は無いなら家族になろうよってか、ふざけんなコンチクショウ!

 初プロポーズが技術目当てのおばちゃんとかトラウマレベルの悲劇じゃないか!


「旦那とはすぐに別れて来るから!」


 待てコラ、既婚者かよ!

 いや、未婚だったとしてもお断りだけどさ!

 旦那さんが可哀想過ぎるだろ!!


「ちょっと落ち着けババア、仕事の依頼を見せろババア。」


 なんか間違えてる気がするけど気にしない。


「依頼だね!魔法ギルドに出す予定の一覧を持って来るよ!

 ちょっとここで待ってな!」


 そう言って受付の方にダッシュするおばちゃん。

 ここにいると逃げられなくなりそうなので、後をついて行き受付まで移動する。

 もちろんカウンターの向こう、客側である。


「あら、来たのかい?持っていってやったのにさあ。」


 シナを作りながら言うおばちゃん。

 正直一部の人を敵に回しそうだけど、男も女も分類上45歳過ぎれば中年なんだから少しはわきまえようよ……

 体感的にはもう50オーバーだから中身は釣り合うのかも知れないけど、見た目は23歳のはずだからね?


 精神は時間ほど老成してない気がするし、肉体の年齢に引っ張られるのはあるのかも知れない。

 異世界転移の最初の方は普通に歳をとってて、30代前半くらいの時には少し老いを感じ始めたし。

 若返って体力が戻ると、気力も戻って気分的に若返った気がする。

 まあ地球の普通の人を10だとすると、15京が14京8,500兆になったくらいだけど。


 健全な精神は健全な肉体に宿るって言葉はこういう事かも知れない。

 少なくとも身体障がい者を悪者にする言葉じゃないはずだ。

 それだと今度は老人を悪者にする言葉になっちゃうけど。


 そんな風に現実逃避していると、目の前におばちゃんのキス顔。


 ……危うく殺すところだったぜマジ危ねえ!


 超高速でギルドから外に後ずさりつつも、その手には依頼をまとめた紙があった。

 とりあえず瞬間記憶し、紙飛行機にしてギルドに飛ばしておいた。


 ……風の魔法は使ったけど、紙飛行機自体にはエンチャントしていない。

 また何か騒ぎの種になりそうだし。



 うわあ……マジでこれから何をしよう。

 成り行き任せって思ったより上手くいかないな、これ。

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