第39話 オッサンズ

 というわけで魔王退治から仲間外れにされた俺は、目的をグルメ旅行として旅を続けるのであった。


 ……あれ?グルメ情報誌はどこにあるの?


 あるわけがなかった。

 異世界から来た領主とかいたのなら活版印刷ぐらいはやってそうだけど、そこまで広がってるようには思えない。

 だって最初の王都で本の絵の建物無かったし!

 文字まで自動翻訳されてるから気にしてなかったけど、日本語みたいに文字数がたくさんあると活版印刷もそんなに有用じゃないしね。


 というわけで、まずはある程度大きな街に行って情報を調べよう。

 もはや国境どころか山を越え谷を越え、とりあえず暖かい南の方に向かって飛んでいる。

 地球では香辛料が暖かい所で栽培されてたから、という理由なのは秘密です。



 しばらく飛んでいると、地平線の向こうに海が見えた。

 海と言えば魚!港町!貿易!異国の商人!世界のグルメ情報!

 もはやグルメで頭がいっぱいである。


 海岸線沿いにしばらく飛んでいると、中規模の港町が見えた。

 真っ直ぐな海岸線と平行に街道が通っており、それと平行に森との境界線が続いていた。

 畑は申し訳程度にしか無く、逆に宿場町として出来たのか宿屋っぽい建物は沢山あった。


 とりあえず姿を消して森に着地。

 少し様子を見てみたが、普通に街道から商人のふりをした方が良さそうだ。

 森方面に行く人の姿はあるが、全員皮鎧などで武装した冒険者スタイルである。


 今思いついた案だけど、商人設定の方がトラブルに巻き込まれずにすむかもしれない。

 商人なのにこの国のお金を持っていないのは問題だけど、盗賊に襲われたとか言っておけばいいかな?

 前に襲われたのは噓じゃないし。うん。

 ……この国でも無ければ、全部返り討ちにしちゃってるけど。


 高そうな品物を隠し持ってたって事にして、この町で換金して商売を始めよう。

 職人兼商人で商売には甘いけど、品物は良いって設定なら多少非常識でも不自然じゃないはず。



「ここは駐屯地だ、一般人は入れないぞ。」



 ダメでした。

 この先には宗教的な施設があるだけで、一般人は来ないらしい。

 なぜこんな所にいるのか疑われたけど、とっさに盗賊に襲われたあと、森をしばらく迷った設定で乗り切った。

 同情を買おうと、「食糧も尽きるところでギリギリでした!」とかアピールしてみたり頑張った。うん。


 ……おかげで、近くの街まで送ってくれるというオッサン兵士2人の優しさが胸に刺さる。

 罪悪感マジ半端ない。

 ちょうど街に戻る交代のタイミングだから気にするなだってさ!

 街に入る時のお金まで出して貰っちゃったよ!


 お礼に、隠し持ってた設定の魔道具渡そうとしたら断られた。

 お金に困るだろうからだってさ!

 優しいね!オッサンズ!


 後日必ずお礼に魔道具を作ることを約束し、教えて貰った商人ギルドと職人ギルドをまわる事にした。


 ……ここ数回の異世界生活で、1番のダメージかも知れないな。これ。

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