閑話5 勇者の修行

 ボクは修行を頑張っていた。

 非力な白く細い腕は徐々に、本当にわずかずつではあるが太くたくましくなっていった。


 魔法も基本を覚えてみれば意外と仕組みは簡単な物であり、オリジナルと思われる魔法もいくつか覚えることが出来た。

 と言っても、オリジナルだと思っていた内の1つが古い書物に載っていたので、他のも既にある魔法なのかもしれない。

 しかし大事なのは着実に力をつけているという事だった。


 一緒に召喚されたお兄ちゃんが常識を学び終え、城を出て行ってからもう15日。

 召喚されてからは20日になる。

 もうそろそろ1人で外に出てみるのもいいかもしれない。


 ボクの事をスケベな目で見ていた変なヒゲの貴族は、ある日突然ハゲていた。

 おでこに海苔がついているのかと思ったぐらい一部分を残してきれいにハゲていた。

 髪の毛と共に色々失ったのか、以前は色々と干渉してきていたヒゲの貴族だけど、今では城に来る事もほとんどない状態だ。


 邪魔者もいなくなり、昔テレビで見たことがあるような恰好したお姫様もそろそろ魔物を倒してレベルを上げるべきだと言う。

 レベルが上がったら一気に強くなるとの事だったけど、果たして強くなったボクは日本に戻って普通の日常に戻れるのだろうか。


 いや、巻き込まれて一緒に来てしまったあのお兄ちゃんのためにも、勇者のボクが頑張らなければいけない!


 ひとまず一緒に戦ってくれる人を探すため、傭兵斡旋所で仲間を探すといいそうだ。

 お城の人にそう教わったボクは白い街並みで傭兵斡旋所を探して歩く。

 なぜかボロボロになった建物の隣が目的の場所だった。

 中に入ると他の傭兵の人たちがいたのだけど、なぜかみんな頭の毛が無い。

 日本の武士は兜が蒸れるから剃っていたとか聞いた事があるけど、ここの人たちもそうなのだろうか。


 ……そう言えばお兄ちゃんもちょっとおでこが──


 急激に寒気を感じたボクは変な事を考えるのをやめ、受付で登録する事にする。

 目の下にクマを作り、顔色の悪いおば…お姉さんが対応してくれた。


 ルールは簡単、人に迷惑をかけない。

 傭兵って事で荒っぽい人ばかりなのかと思ってたけど、意外と真面目な人たちみたいだ。

 そう思ったのだけど、聞いてみるとつい最近痛い目にあったらしかった。

 人をちぎっては投げ、床に突き刺し、地面に埋めては髪の毛をムシっていく悪鬼のようなものに遭遇してしまったとの事。

 まさかボクが倒さなければいけない魔王ってそいつの事なんだろうか。

 でも死人は一応出ていないらしい。じゃあ違うのかな。怖い人とはあまり戦いたくないな。


 若干弱気になったボクだけど、どこかの傭兵団に入れてもらって強くならないと。

 受付のお姉さんがいくつか教えてくれたのは、どれも強そうな名前の傭兵団だった。

 もっと強い[我らが栄光]という傭兵団があったらしいけど、さっきの悪鬼のような人に[失われた毛根]って名前に改名させられて解散したらしい。

 ひょっとしてさっきの毛が無い人たちって……


 と、とにかく[筋肉の宴]っていう強くなれそうな名前の傭兵団に入れる事になったし、ボクも強くならなきゃ!

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